先日、「在宅医療におけるオンライン診療」というタイトルで講演を行った。そこでは、実際に当院が行ったオンライン診療の実例を紹介し、在宅医療におけるオンライン診療は利用が拡大しており、今後も在宅医療DXの一環として普及していくだろうと結んだ。
現在のオンライン診療は、働く世代や子育て世代に対しては通院時間や待ち時間といった「時間的制約の軽減」、感染症流行期には「感染リスクの軽減」、そして離島やへき地の患者に対しては「移動負担の軽減」が主な目的とされ、医療アクセスの向上が期待されている。主に外来通院患者を対象に行われることが多いが、在宅医療を受けている患者にとってはどのような利点があるのか、改めて考えてみたい。
在宅医療は、もともと通院が困難な患者を対象としているため、オンライン診療に切り替えることによる「移動負担の軽減」という利点はほとんどない。通院時間そのものがなく、待ち時間も自宅で過ごせることから「時間的制約の軽減」という点でもあまり効果はない。「感染リスクの軽減」という面では一定の利点があるかもしれないが、それも大きなメリットとは言いにくい。
しかし、在宅医療において医療や介護を提供している多職種にとっては、訪問時に何か気になることがあったときに、医療へ気軽にアクセスすることができる仕組みがあることは、「安心感の確保」という意味で一定の価値がありそうだ。それは結果的に、患者や家族にとっての利点にもつながるだろう。
また、オンライン診療のようにICT機器の使用が不可欠な状況においては、「D to P with N(またはCare Worker)」のように、医師とつながる際に患者のそばに看護師や介護士が寄り添う仕組みがあることも、安心感の確保において重要だと考えられる。
オンライン診療に使用するツールは、専用のものでもかまわないが、汎用のビデオチャットやテレビ電話など、使い慣れたものでも問題ないと考えている。多職種にとっての利便性を考慮すると、多職種連携ツールとの連動性が高いものが望ましく、現状でもそうしたツールにビデオチャット機能を追加して使えるものがあるため、状況に応じて適切に活用すればよいだろう。
一方、医師側から見ると、「移動時間の短縮」や「患者サービスの向上」といった利点はあるものの、診療報酬が下がるという大きな欠点がある。さらに、機器や通信環境の準備といった手間もかかるため、現時点ではオンライン診療がそこまで普及していないのかもしれない。
それでも、オンラインでつながったときに見せてくれる患者の笑顔を見ると、顔の見える安心感や、対話を通じた信頼関係の大切さを改めて実感する。こうした関係性を大切にしながら、今後も適切な形でのオンライン診療を続けていけるとよいと感じている。
土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[在宅医療][オンライン診療]