日本では、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」により、定年の引き上げや定年後の継続雇用の確保が促進されています。具体的には、65歳までの雇用確保(義務)や、70歳までの就業機会の確保(努力義務)となります。高齢就労者は増え続けており、職場では認知機能の低下した人の働き方をどのように支援するかが課題となっています。
2017〜19年度に実施された調査によると、日本の若年性認知症の有病率は人口10万人当たり50.9人で、2018年1月1日を基準日とした推定有病者数は約3.57万人です。発症時に就労していた人は全体で59.0%(65歳未満:61.8%、65歳以上:55.6%)でした。このうち、約半数の49.6%(65歳未満:58.7%、65歳以上:38.7%)が、正社員として働いていました。
認知機能の低下により就労が困難になった場合、職場からの配慮としては、「配置転換」が最も多く、全体で12.6%(65歳未満:15.7%、65歳以上:9.8%)でした。一方で、「いずれの配慮もなかった」と答えた人は全体で20.5%(65歳未満:22.9%、65歳以上:17.8%)にのぼります。さらに、全体の55.9%(65歳未満:57.7%、65歳以上:54.1%)が定年前に自己退職し、5.2%(65歳未満:6.2%、65歳以上:4.4%)が解雇されたと回答しています。
調査時点で、発症前と同じ職場で働いている人は9.4%にとどまり、退職・解雇・転職・休業(休職含む)した人は7割を超えています。正社員であっても発病前と同じように働き続けることが難しいのが現状です。
医療機関は、認知機能低下に関する相談窓口となりえます。同調査によると、本人の困りごとでは、病状の進行など病気そのものに関するものが約5割、気分の不安定や不安感に関するものが約2割を占めていました。加えて、社会参加の機会が少なく社会とのつながりが希薄であることに困っている人も約2割います。これらから、認知症の人が必要としているのは、薬物治療だけでなく、人とのつながりや居場所づくりであることが示されています。診療にあたる医師には、本人が何に困り、どのような希望を持って生きようとしているかを理解し、人生に寄り添うことが求められます。
医師の中には、定年後も働ける環境を体験的に知っている人も多く、高年齢者の働き方に必要な配慮について理解があります。産業医や主治医、かかりつけ医として当事者に関わる機会も多いでしょう。医師からの助言や医療機関とのつながりは、地域に居場所をつくるヒントとなり、安心して次のステージに進む支えになります。
本人や家族にとって有益な情報提供と医療者からの助言は、やがて訪れる卒就労の時期を安心して迎えるための重要なサポートとなっています。
安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[若年性認知症][治療と仕事の両立支援][高年齢者]