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【識者の眼】「オンコールを労働時間にしたEU」榎木英介

登録日: 2025.10.17 最終更新日: 2025.10.17

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

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なかなか進まない働き方改革。変わろうとしない医療界・・・・・・。

こうした膠着した状況をどうすれば変えることができるのだろうか。1つの方法は、成功事例を真似することだ。しかし、よい成功事例を見つけることは簡単ではない。そこで、私が代表を務める全国医師連盟では、海外に目を向けることにした。本連載では、私たちが見つけた成功事例を紹介していきたいと思っている。第1回は欧州連合(EU)の事例だ。

EUでは、医師のオンコール拘束時間(いわゆる待機時間)を労働時間として算入するための厳格な規制がある。これは、EUの「労働時間指令」という法令に基づくものだ。この指令は、労働者の健康と安全を守るために、EU加盟国すべてに週48時間労働の上限や、1日11時間の最低連続休息、最低24時間の週次休息日を設けることを義務づけている。

欧州司法裁判所の判例(SIMAP判決ほか)は、「院内オンコール」─つまり医療機関内での待機時間すべてを、実際に医師が治療や対応をしていない時間も含めて「すべて労働時間」とみなすと明言している。また、「自宅待機」(宅直)についても、緊急呼び出しへの即応義務があったり、移動や行動が強く制約されている場合は労働時間として算入される。これにより、多くの国でオンコール拘束時間は広範に労働時間として計上されるのが一般的だ。

一方、48時間ルールの厳格な運用は、特に救急医療や小規模病院で「人員が足りない」といった現実的な問題を引き起こすため、例外的に医師に限って「オプトアウト制度」(同意した医師は上限を超えて勤務することができる)も認められている。ただし、この「オプトアウト制度」も臨時措置として位置づけられ、常態化は好ましくないとされている。

加盟国ごとの事情は異なり、たとえばフランスやドイツ、イタリアの公立病院では指令の完全な順守が困難な現場もあるが、英国(EU離脱前)や北欧諸国では既にオンコール時間も含めた週48時間以内のシフト管理が一般化している。

医師の健康と安全、引いては患者の安全を確保する仕組みとして、EUの制度は今後、日本の医療現場にとっても重要な比較対象・参照モデルとなるのではないか。もちろん、国の事情は異なるため、そのまま取り入れられるものでないにしても。

次稿以降でも、こうした事例を紹介していきたい。

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[働き方改革][オンコール

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