トランプ政権の劣化ぶりがはなはだしい。第一期政権のときはそれでも周囲が抑えにまわり、お痛が過ぎないように牽制されていたが、第二期政権ではそういうお目つけ役を周囲から排除し、自分に従うイエスマンだけで固めたという。一般的に、リーダーがイエスマンで固めるようになったら、その組織は滅びの道をまっしぐらだ。米国は加速度的に劣化している。転がり落ちる石のように。
トランプ大統領とロバート・ケネディ・ジュニア(RFK Jr.)保健福祉長官は記者会見を開き、タイレノール®(アセトアミノフェン)を妊婦が服用すると自閉症になるリスクが高いと主張しはじめた。
最大の問題は、タイレノール®のリスクの有無「そのもの」にはない。純粋に医学的な内容を国家のトップがわざわざ記者会見を開き、関係当局(米国食品医薬品局:FDA)に圧力をかける方法論が問題なのである。本来であれば、医薬品の安全性はFDAが吟味し、方針を示すべきなのだ。大統領が専門家集団をガン無視して頭ごなしに医学を論ずる。民主主義国家が絶対にやってはいけない禁じ手である。
既に米国疾病予防管理センター(CDC)のワクチン諮問委員会ACIPのメンバーは全員解任され、トランプ大統領とRFK Jr.の息のかかったメンバーだけで構成されるようになった。
過日の記者会見でトランプ大統領は、MMRワクチンの打ち方にも変更を求めたが、そのとき「This is based on what I feel」と述べた。フィーリング・ベイスド・メディシン(FBM)爆誕である。
ファクトをガン無視し、聞き手の感情に訴える。ゲッベルスが好んで用いたプロパガンダの常套手段である。問題なのは、これがきわめて効果的な方法だということだ。トランプ大統領やRFK Jr.の演説を聞いて、自閉症の子どもを持つ親たちの多くは「やはり薬やワクチンが悪かったんだ。悪いのは私たちではない。医学産業の連中だ」と歓喜しているであろう。ゲッベルスはこの手法を用いてユダヤ人や身体障害者たちを大量虐殺したのだが。
問題は日本である。戦後、日本は米国を最大の同盟国とし、運命をともにしてきた。もっとも、同盟国とは名ばかりで現実の日本は主従の関係にある隷属国である。
先日、英国はパレスチナを国家として承認する意向を発表した。トランプ大統領は不満だったが、「同盟国」の英国は見解を違える判断もできるのだ。隷属国の日本にはこのような選択肢、プランBを持てていない。
没落する大国とともに心中するのだろうか。これがプランAの行き着く先のようにぼくには思える。
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[民主主義][医薬品]