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【識者の眼】「在宅医療を地方から考える」小野 剛

登録日: 2025.10.15 最終更新日: 2025.10.15

小野 剛 (市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)

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日本全体で高齢化が進行し、多くの地域では今後、2040年に向けて在宅医療のニーズが増加すると予想されている。高齢化と人口減少が先行して進んでいる地域で、40年間地域医療を実践してきた中で、在宅医療の姿が時代とともに変化していることを実感している。

医療が介護を代替していた昭和の時代には、「往診料」が診療報酬に位置づけられ、その後「寝たきり老人訪問診療料」が新設され、定期的・計画的に患者の自宅を訪れて診療する「訪問診療」という概念が初めて導入された。筆者が地域医療の現場に関わり始めた1985年頃は、「往診」が主体であり、「訪問診療」はまだ一般的ではなかった。当時、往診に訪れると、ほとんどの患者宅の家族構成は3世代、あるいは4世代の大家族であり、介護の担い手は主に配偶者や息子のお嫁さんであった。また、自宅で最期を迎える高齢者も比較的多く、家族や親族など多くの人に囲まれて旅立っていく光景がみられた。

その後、平成に入り、「在宅医療」が法律上で位置づけられ、様々な施策が講じられてきた。2000年には介護保険制度が始まり、介護や福祉の体制が整備された。訪問介護などの介護保険サービスを利用しながら自宅で療養する高齢者が増加し、「訪問診療」の件数も増えていった。その頃には3世代同居は減少し、高齢者夫婦のみの世帯が増加、お世話をするのは配偶者が中心であり、看取りの場面でも、身内の少ない人数で静かに最期を迎えるケースが多くなった。

さらに時代が進み、医療と介護の連携が一層重要となる令和の現在、2025年にはすべての団塊の世代が75歳以上となる。当地域においても、高齢者夫婦のみの世帯や高齢者の単身世帯が目に見えて増加し、入院しても自宅に戻れず施設へ入所する方が多くなっている。自宅への訪問診療は減少傾向にある一方で、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などへの訪問診療は増加している。また、施設で最期を迎えるケースも増えており、医療と介護の連携や融合の重要性を日々実感している。

悪性腫瘍の末期状態や、脳血管障害によって障害が残った患者が、住み慣れた自宅で訪問診療を受けながら療養する例はこれまでも多かったが、近年では、ある程度は動けるものの通院手段がないために訪問診療を受けている患者も目立つようになってきた。こうした後者のケースでは、訪問診療を提供するのではなく、行政が通院手段を講じる、あるいはデイサービスの送迎を利用して医療機関に立ち寄れるようにするなど、制度上の柔軟な対応が必要ではないかと考える。通院が可能になれば、高齢の患者が自宅で閉じこもることなく、必要に応じて歩いたり、地域の仲間と交流したりする機会が増え、フレイルや認知症の予防にもつながるのではないだろうか。

最近、ビジネス的な感覚で在宅訪問サービスを過剰に提供し、診療報酬を不当に受け取っていた事業所の事例が報道された。真に在宅医療のニーズがある患者に対して、適切なサービスを提供することが、在宅医療の質の向上につながり、よりよい地域医療の構築に寄与するものと考えている。

小野 剛(市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)[在宅医療][地域医療

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