「泣きの七つ松」。荒木村重の家族や一族郎党が海辺の浜で処刑されたことから、こう呼ばれる町に当院はある。かつては海岸線だったと言われる湿地に残る池を埋め立ててできた公園の名前は「昭和公園」。その北側にひっそり佇む当院は、父が1958(昭和33)年に開業して六十数年、下町の住宅地にある地域密着型の内科・小児科である。2カ月の乳児の予防接種から百寿者の健康管理まで、よろず相談に応じる町医者として、拙い知識を総動員して日々の診療に勤しんでいる。
そんな町医者の外来に、高血圧と脂質異常症で定期来院している66歳の男性が、6月のある日「今朝から胸が苦しかったが、今は少しましになった」と訴えて臨時来院した。やや頻拍を認める以外にバイタルサインに異常はなく、胸部聴診も正常。SpO2や心電図も正常範囲であったが、白血球増多と左方偏移を認めたため、細菌性呼吸器感染を疑い抗生剤投与を開始した。
この際の胸部正面X線が図bである。5年前の図aに比し、左CP angleがdullとなり、軽度心拡大がある印象をカルテに記載した。