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【識者の眼】「薬価制度改革に向けて、より根本的な議論を」坂巻弘之

登録日: 2025.10.08 最終更新日: 2025.10.08

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

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2025年9月17日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会において、次期薬価制度改革に関する業界団体による意見陳述が行われた。

薬価改定は、偶数年に実施される本改定と、奇数年(いわゆる中間年)に実施される限定的改定にわけられている。中間年改定は対象範囲を限定して行われるのに対し、本改定ではすべての医薬品を対象とした改定に加えて、薬価制度全体の見直しが行われるのが通例である。たとえば、2024年度改定では、革新的新薬の早期導入を促進するための「迅速導入加算」の新設や、「新薬創出加算」「有用性系加算」の見直しなど、多面的な新薬価値評価に向けた改正が行われた。また、業界団体による意見陳述が改定議論のさなかに行われるのも、恒例となっている。

次回2026年度は本改定の年に当たり、制度全体のあり方が広範に議論されるべきである。しかしながら、今回の業界団体による意見陳述の多くは、これまでと同様、新薬を中心とした価格維持の主張が中心で、物価上昇を背景とした単純な価格の引き上げ要求にとどまっており、制度改革の根本的な議論には十分につながっていない。このため、業界団体による意見陳述は、企業側の主張を示す「ガス抜き」の場にとどまり、形式的な恒例行事に過ぎなかったとの印象を否めない。

中医協は本来、支払い側と診療側の利害調整を担う場であるため、薬価制度そのものの原理に立ち返った設計や、長期的な方向性を議論する枠組みにはなっていない。そのため、これまでも、原価算定方式のあり方、超高額が見込まれる再生医療等製品の保険償還の仕組み、正式承認に至らなかった条件つき承認品目の償還の扱い、さらには介護負担軽減など、既存の評価体系では十分に測れない新薬の価値評価といった多くの「宿題」が積み残されたままとなっている。

こうした根本的な薬価制度のあり方の議論が求められる中で、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)は、「新たな価格制度について産官学での検討の場」の設置を提案しており、制度改革を進める上で意義のある提案といえる。保険償還の対象範囲やイノベーション評価の手法、高額医薬品に対して欧米で導入が進む「成功報酬型」償還制度の導入可能性など、中医協以外の場で腰を据えて検討すべき課題も少なくない。

薬価制度の議論においては、イノベーションの適切な評価、イノベーションへのアクセス、支払い可能(アフォーダブル)な価格設定と医療費コントロールといった多面的な目標を、制度として同時に達成することが求められる。そして、それに基づき、保険制度エコシステムの持続可能性(サステナビリティ)を維持することが求められる。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[医薬品不足][薬価制度改革]

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