検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

ヤマカガシに咬まれた患者さんを診察するときに絶対に注意すべきポイントは?【今すぐ知りたい血清療法の実臨床 謎となぜ55】

登録日: 2025.10.17 最終更新日: 2025.10.27

お気に入りに登録する

 毒蛇咬傷=DIC? 実はヘビの種類によって病態生理が違います。救急・集中治療に役立つ血清療法の知識と,今話題の破傷風トキソイドの現状をお届けします(全4回の3回目)
※本稿は,一二三亨 『今すぐ知りたい血清療法の実臨床 謎となぜ55』の一部を抜粋・編集したものです。

謎となぜ
重症ヤマカガシ咬傷は過去50年間で47名にすぎません1)。そのため,ほとんどの先生方はヤマカガシ咬傷患者の診療経験がなく,いろいろな誤解を招いている可能性があります。本項では,ヤマカガシ咬傷患者さんを診療する上での注意点をまとめます。

ヤマカガシ咬傷患者さんを診療する上での注意点

Q
重症ヤマカガシ咬傷患者さんは診察時にどのような状態でしょうか?

A
元気です。なぜなら,ヤマカガシ毒はほぼ単一毒であり,凝固系への作用のみです。呼吸,循環,神経系などには作用しません。そのため意識レベルを含めてバイタルサインは正常ですし,乳酸値が上がるわけではありません。重症状態なので“ぐったり”を勝手にイメージしてしまうと,ヤマカガシ咬傷を鑑別から外してしまうので注意が必要です。もちろん,咬まれた後に放置して数日後に脳出血を発症した場合には意識障害などで救急搬送されることもあります。

Q
どんな患者さんが咬まれやすいでしょうか?
A
ヤマカガシの牙は少し奥側に位置しており,さらに牙が非常に小さいという特徴があります(☞本書16項参照)。つまり,一度咬まれただけでは毒が体内に入り込むことは多くなく,重症症状をきたすには何回も咬まれる必要があります。これらの特徴から,小児がヘビで遊んで咬まれてしまうパターン,飲酒後にヘビで遊んで何回も咬まれるパターン,さらに珍しいところでは自殺企図でヤマカガシに咬ませる(咬まれる)症例などがあります。
上記の患者さん群は,なかなか真実を素直に語ってくれない可能性があります。慎重に,丁寧に話を聞いていかないと,まったく違う病歴となってしまうことがあります。たとえば,ヘビに1回だけ咬まれたと患者が言っていて,手に複数の咬傷痕がある場合には辻褄が合わないので,そのようなときには注意深く話を聞いていく必要があります。また小児の場合には,保護者や周りの大人からヘビで遊んでいたことに対して怒られることを心配しているでしょうから,「怒らないからどんな感じだったか話を聞かせて」と,一緒に話をする形が良いかもしれません。

Q
検査結果はどんな状態でしょうか?
A
咬まれてすぐの場合には,特徴的なFDPの著増,フィブリノゲンの著減が認められないことがあります。そのため,ヤマカガシを疑った場合には1回目の血液検査結果が正常の場合には2~3時間あけてもう一度測定したほうがよいです(☞本書16項参照)。
また,仮に異常値を認めた場合にも,検査科の方が機械の故障などと判断してしまい,何回も再検査して最終結果が非常に遅くなることがあるので注意が必要です(☞本書16項参照)。検査結果が遅くならないよう,たとえば「ヤマカガシ咬傷を疑っており,異常値の場合,再検査せずまず一報ください」などと伝えておくのがよいでしょう。

謎となぜに対する答え
ヤマカガシ咬傷の患者さんは基本的には元気。病歴聴取は慎重に! 凝固検査結果が真実を語ります。

文 献

1) Hifumi T, Sakai A, Yamamoto A, et al:Rhabdophis tigrinus (Yamakagashi) bites in Japan over the last 50 years:a retrospective survey. Front Public Health. 2022;9:775458. PMID: 35083190


1