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ヤマカガシとマムシに咬まれたときの症状の違いは何?【今すぐ知りたい血清療法の実臨床 謎となぜ55】

登録日: 2025.10.10 最終更新日: 2025.10.27

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 毒蛇咬傷=DIC? 実はヘビの種類によって病態生理が違います。救急・集中治療に役立つ血清療法の知識と,今話題の破傷風トキソイドの現状をお届けします(全4回の2回目)
※本稿は,一二三亨 『今すぐ知りたい血清療法の実臨床 謎となぜ55』の一部を抜粋・編集したものです。

謎となぜ
毒ヘビ咬傷という話から「DIC(播種性血管内凝固症候群)になりますよね…」と質問を受けることがよくあります。DICと一言で言っても,マムシとヤマカガシって,同じようなDICでしょうか? 少しマニアックかもしれませんが,病態生理を考えることは実臨床では重要です。一緒に考えましょう。

マムシ咬傷とヤマカガシ咬傷のDICの病態生理

沖縄・奄美地方以外での日本での毒ヘビ咬傷は,特殊な外来種を除けば,マムシかヤマカガシです。2つに1つ…。ただし,ヤマカガシ(重症例)は非常に少ないため,ほとんどの先生はこれまでにヤマカガシ咬傷の経験がなく,マムシかヤマカガシか,判断に悩むかもしれません。表1を見てください。咬傷部の所見と血液検査所見でマムシとヤマカガシを明確に区別しました。☞16項にもありますが,咬傷部の所見で腫れていればマムシ,出血がジワジワ続いていたらヤマカガシでしたね(表1)。
本項ではもう一歩踏み込んで血液データについてお話しします。最初の問いに戻ります。DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固症候群)ですね。一般にDICと言えば,血小板が低下して,FDPやD-dimerが増加する,といったイメージがあるかと思います。

マムシに咬まれた場合

マムシの場合,咬まれてすぐにDICになることはありません。症例1のマムシ咬傷症例をご覧ください。72歳女性です。マムシに咬まれて2時間後の血液データがあります(表21)。血小板数の著明な低下を認めていますが,フィブリノゲンは低下もないですし(ヤマカガシ咬傷では,フィブリノゲンが減少します),D-dimerも軽度の増加にとどまっています。これはマムシ毒が血管内に直接注入されたとされる症例で*1,血小板数はマムシ毒の血小板凝集作用で一時的に凝集し低下しています。ただし,D-dimerやフィブリノゲンの大きな変化はありません。この現象はDICではありません…。一般的にマムシ咬傷でDICをきたす場合,多臓器不全から重症状態を呈した成れの果てとして,DICになることはあります。その際は敗血症性DICに近い形です。D-dimerやFDPは中等度の増加にとどまり,血小板数は低下します。

*1 通常は皮膚の厚みに応じてですが,皮下に注入されることが多いと思います。予防接種のイメージで良いかと思います。

ヤマカガシに咬まれた場合

その一方で,症例2をご覧ください。40歳男性,ヤマカガシに咬まれて24時間後の血液データです(表32)。血小板数は正常ですが,FDP>500μg/mLと著明に増加し,フィブリノゲンは著明に減少しています。いわゆる線溶亢進型DICです。
このように,マムシとヤマカガシの症例を比較すると,血液検査結果は全然違うことがわかると思います。

謎となぜに対する答え
マムシ咬傷で,初期に血小板数が著明に低下するのは,毒が血管内に直接注入された,例外的なパターンの場合です。多臓器不全の後にDICを呈することがありますが,その場合にはFDP,D-dimerの増加は中等度にとどまります。 ▶一方,ヤマカガシ咬傷では,FDP,D-dimerの著明な増加とフィブリノゲンの著明な低下を認めます。凝固線溶系以外の採血結果は正常値です。

 

文 献
1) 藤田 基, 山下 進, 河村宜克, 他:著明な血小板減少を来したマムシ咬傷の1例. 日救急医会誌. 2005;16(3):126-30.
2) Hifumi T, Murakawa M, Sakai A, et al:Potentially fatal coagulopathy secondary to yamakagashi (Rhabdophis tigrinus) bites that completely recovered with antivenom treatment. Acute Med Surg. 2015;2(2):123-6. PMID: 29123706


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