低血糖症は,インスリンやスルホニル尿素(sulfonylurea:SU)薬などの糖尿病治療に起因して好発する。そのほかにもインスリノーマやインスリン自己免疫症候群,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)欠損症等の内分泌疾患,また抗不整脈薬や抗菌薬により発症する。低血糖は一般に,血糖値が70mg/dL未満をレベル1の低血糖,54mg/dL未満をレベル2の低血糖とする1)。血糖値が70mg/dL未満に低下すると自律神経系症状(動悸,発汗,蒼白,振戦,空腹感など)を,50mg/dL未満に低下すると中枢神経系症状(眠気,錯乱,視野の異常,意識レベルの低下など)をきたす。さらに低下すると意識障害により回復のために第三者の介助が必要となる重症低血糖症となり,神経症状が残ったり,不整脈や心血管事故を引き起こし生命の危機に至ったりする場合がある。
▶診断のポイント
低血糖を疑う自覚・他覚症状がある場合は,血糖値を測定することで容易に診断できる。低血糖による自律神経系症状は,慢性高血糖状態では比較的高い血糖値で自覚されることがあり,逆に低血糖を繰り返したり進行した神経障害を合併したりすると,いきなり中枢神経系症状が現れる無自覚性低血糖になる場合がある。インスリン治療者では,低血糖症の発症や重症化のリスクが高まる運動や入浴の前後や就寝前に,また,事故につながる自動車等の運転前に血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)を行い,その予防をめざす。なおインスリン治療中の高リスク者(無自覚性低血糖,高齢,腎機能低下,HbA1c低値)2)では,警告音を発することができる持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)が良い適応である。