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本態性振戦[私の治療]

登録日: 2025.10.06 最終更新日: 2025.11.07

永井将弘 (愛媛大学医学部附属病院臨床薬理神経内科特任教授)

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▶私の治療方針・処方の組み立て方

早期に治療を行っても,疾患の進行を遅らせることはできない。このため,振戦が軽度で日常生活や仕事に支障がない場合は経過観察してもよい。

日常生活や仕事に影響する場合,他人の視線が気になるため治療を希望する場合は,通常薬物療法から開始する。本態性振戦への根治療法はなく,症状を緩和する対症療法が中心となる。

αβ遮断薬,β遮断薬,抗てんかん薬,抗不安薬が主に使用されているが,わが国において本態性振戦に対して保険適用があるのはαβ遮断薬のアロチノロールのみである。このためアロチノロールで治療が開始されることが多いが,β遮断薬のプロプラノロールを選択してもよい。効果が不十分なときは,抗てんかん薬(クロナゼパム,プリミドン,ゾニサミドなど)を併用する。気管支喘息などでアロチノロール,プロプラノロールが使用できない場合は,抗てんかん薬,抗不安薬(アルプラゾラムなど)を選択する。

薬物治療で十分な効果が得られない場合は,定位的視床破壊術,ガンマナイフ視床破壊術,脳深部刺激療法(DBS),MRガイド下集束超音波療法(MRgFUS)などの外科的治療を検討する。

【治療上の一般的注意&禁忌】

糖尿病治療中の患者では低血糖の前駆症状である頻脈,振戦などの交感神経系反応が,β遮断作用によりマスクされるため,注意が必要である。

アロチノロール,プロプラノロールは気管支喘息,高度の徐脈,うっ血性心不全を合併する患者には禁忌である。

▶治療の実際

一手目 アロチノロール塩酸塩10mg錠(アロチノロール塩酸塩)1回1錠1日1回(朝食後)。1日10mgから開始し,効果不十分な場合は1日20mg〔1回1錠1日2回(朝・夕食後)〕に増量。最大量は1日30mg

二手目 〈処方変更〉インデラル®10mg錠(プロプラノロール塩酸塩)1回1錠1日3回(毎食後)。1日30mgから開始し,効果不十分な場合は漸増。最大量は1日120mg

三手目 〈一手目または二手目に追加〉リボトリール® 0.5mg錠(クロナゼパム)1回1錠1日1回(就寝前)。1日0.5mgから開始し,効果不十分な場合は1日1~6mg(分2~3)まで漸増

四手目 〈一手目または二手目に追加〉プリミドン99.5%細粒(プリミドン)1回25mg 1日1回(夕食後)。1日25mgから開始し,眠気,めまいの副作用に注意しながら漸増。通常は1日250mg以下で使用

五手目 〈一手目または二手目に追加〉エクセグラン® 100mg錠(ゾニサミド)1回0.5錠1日1回(夕食後)。1日50mgから開始し,効果不十分な場合は1日100~200mg(分1~2)まで漸増

▶患者への説明のポイント

生命予後は悪くなく,余命を縮めることはない。振戦は精神的ストレス,疲労,興奮などで強くなるため,十分な睡眠と休養をとるよう心がける。

コーヒーなどカフェイン含有飲料により振戦が増強するため,できるだけ控えるようにする。飲酒により振戦の一時的な軽減がみられるが,効果消失後に一過性に振戦が増強する場合があるため,症状軽減目的での飲酒は勧められない。

抗てんかん薬を使用する場合は,本態性振戦はてんかんではないことを説明した上で処方する。

【参考資料】

▶ 日本神経治療学会治療指針作成委員会:神経治療. 2011;28 (3):295-325.

永井将弘(愛媛大学医学部附属病院臨床薬理神経内科特任教授)


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