▶私の治療方針・処方の組み立て方
SASの治療法として,持続陽圧気道圧(continuous positive airway pressure:CPAP),口腔内装置(oral appliance:OA),減量,側臥位睡眠,酸素投与,非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV),適応補助換気(adaptive servo ventilation:ASV),外科手術,埋め込み型舌下神経刺激療法,横隔膜ペーシングなど多彩な治療法があるが,最も治療効果が高いのはCPAP療法である。治療の目標は,「日中の過度な眠気も含めた症状やQOLの改善」だけではなく,「将来の心血管障害予防も含めた生命予後の改善」をめざす。
スクリーニング検査として機器を貸し出してODIを評価し,3% ODIが5を超える場合にはSAS疑診として注意喚起,10前後で症状が強い場合もしくは15以上ならば症状にかかわらずPSGを提案する。HSATを用いた場合,40以上で症状があればCPAP適応となるため,重症SASが疑われるケースでは速やかな対応が可能となる。PSGにてAHIを評価し確定診断・重症度診断を行う。軽症(5≦AHI<15),中等症(15≦AHI<30),重症(AHI≧30)である。
CPAP療法の保険適用基準はAHI≧20であり,重症度基準と若干異なる。
重症度にかかわらず,減量指導,また生活習慣の改善,睡眠衛生指導も併せて行う。
【治療上の一般的注意】
CPAP療法は在宅医療として基本的に定期的な受診が必要だが,治療状況の確認手段として遠隔モニタリングシステムを利用することができる。
インターフェースは鼻マスク,口鼻マスク,ピローマスクなど各種あり,リーク対策や患者の嗜好に合わせて選択する。リップテープ,チンストラップなども活用する。加湿器の使用も有益な場合がある。
▶治療の実際
【典型的治療】
〈中等症〜重症〉
一手目 〈第一選択治療〉CPAP療法
患者ごとに圧設定を行うことでアドヒアランスを向上できる。設定法は固定圧と自動調節型(auto CPAP)があり,後者は事前の圧設定不要の手軽さがあり頻用される。
二手目 〈一手目に追加〉CPAPタイトレーション
CPAPの継続使用が困難な場合,評価入院PSG(CPAPタイトレーション)を行う場合がある。患者の状況に合わせ圧範囲やインターフェースなど様々な設定を調整することで改善が期待できる。
三手目 〈治療変更〉OA作成
CPAP療法が困難な場合,軽症患者と同様にOAを作成し症状対策を講じる。AHI改善度は劣るが,使用時間が長く治療効果もある程度期待できる。
〈軽症〉
一手目 睡眠衛生指導,体位性(側臥位でAHI低下)の場合に側臥位就寝指導,減量指導など
二手目 〈一手目に追加〉OA作成
症状が強い場合,またはいびき対策の目的でOAを作成することが多い。OA作成は対応可能な歯科口腔外科に依頼する。
▶偶発症・合併症への対応
花粉症など季節性の鼻閉・鼻汁はSAS重症度,アドヒアランスの悪化をもたらす。抗ヒスタミン薬や点鼻薬,耳鼻科医への相談も時に必要となる。
SAS患者には循環器疾患がしばしば併存しており,特に心房細動などは高頻度に認められる。難治性高血圧症などもSAS併存の可能性を考える必要があり,日本循環器学会から2023年に「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」2)が公開されている。
▶非典型例への対応
CSAの代表例としてチェーン・ストークス呼吸があり,心不全患者にみられることが多い。CPAP治療により過呼吸が誘発され,CSAを生じることもある。ASV機器を選択することもある。
CPAP機器を適切に使用しているにもかかわらずAHIが改善不良の患者には,PSG等再検査を行いCPAP機器設定調整(タイトレーション)や,インターフェースの変更も考慮する。
▶ケアおよび在宅でのポイント
認知機能・記銘力の低下などによりCPAP機器の取り扱いが難しい場合,同居の家人への教育が重要となる。SASの治療はアドヒアランスが重要であり,CPAP機器はある程度使用しなければ十分な臨床効果は得られない。
アドヒアランス良好の基準は「1日4時間以上CPAP機器を装着することが全体の7割以上」とされている。CPAP機器の稼働記録は通信モジュールもしくはSDメモリカードを用いて医療機関でチェック可能であり,アドヒアランス不良の場合にはその要因の分析と対策を講じる。
▶専門家へのコンサルト
CPAP不耐の場合,または十分なCPAP治療の継続でも症状が改善しない場合などはコンサルトのタイミングである。なお,近年保険収載された埋め込み型舌下神経刺激療法3)は国内での実施可能な医療機関が限られる。適応基準などを含めコンサルトを考慮する。
【文献】
1) 日本呼吸器学会, 監:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
2) 日本循環器学会, 他:2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン. 2023.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_kasai.pdf
3) Strollo PJ Jr, et al:N Engl J Med. 2014;370(2):139-49.
佐藤 晋(京都大学大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学講座特定准教授)