単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)または水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)の網膜感染により生じる壊死性網膜炎である。免疫健常者に多く,性別,年齢を問わず,主に片眼性に生じる。数週間の単位で進行し,高率に裂孔原性網膜剝離や視神経乳頭萎縮を生じることで,不可逆的かつ高度な視機能障害に至る。
▶診断のポイント
本症の診断基準1)2)では,初期眼所見項目として1a. 前房細胞または豚脂様角膜後面沈着物がある,1b. 1つまたは複数の網膜黄白色病変(初期は顆粒状・斑状,しだいに癒合して境界明瞭となる)が周辺部網膜に存在する,1c. 網膜動脈炎が存在する,1d. 視神経乳頭発赤がある,1e. 炎症による硝子体混濁がある,1f. 眼圧上昇がある,の6項目が挙げられる。
経過項目として2a. 病巣は急速に円周方向に拡大する,2b. 網膜裂孔,網膜剝離を生じる,2c. 網膜血管閉塞を生じる,2d. 視神経萎縮をきたす,2e. 抗ヘルペスウイルス薬に反応する,の5項目が挙げられる。
眼内液検査として前房水または硝子体液を用いた検査(PCR法あるいは抗体率算出など)で,HSV-1,HSV-2,VZVのいずれかが陽性が挙げられる。
診断分類は,確定診断群として初期眼所見項目のうち1aと1b,および経過項目のうち1項目を認め,かつ眼内液検査でHSVまたはVZVが病因と同定されたものと,臨床診断群として眼内液においてウイルスの関与を証明できない,あるいは検査未施行であるが,初期眼所見項目のうち1aと1bを含む4項目と経過項目のうち2項目を認め,他疾患を除外できるものとしている。
豚脂様角膜後面沈着物を呈するぶどう膜炎に網膜黄白色病変を呈する場合は,本症を強く疑い眼内液検査およびエンピリック治療を開始すべきだが,網膜病変が検出できなくても,その他の初期眼所見項目に該当する場合も本症の積極的鑑別が重要である。