胎生期の心房中隔形成障害による二次孔欠損が,成人期に診療の対象となる心房中隔欠損(atrial septal defect:ASD)の多くを占める。ほかに一次孔欠損,静脈洞欠損,冠静脈洞欠損がある。欠損孔を介した左右短絡が右心系への容量負荷となり,加齢とともに労作時息切れ,心房性不整脈が出現し,心不全や肺高血圧を合併する頻度が上昇する。
▶診断のポイント
若年期には無症状であり,心雑音や心電図異常などにより健診で発見されることが多い。心電図の右脚ブロックや孤立性陰性T波が特徴的である。小児期に診断されていたが,自覚症状に乏しいため治療を受けずに経過した患者に遭遇することも少なくない。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
短絡による右心不全,不整脈,肺高血圧といった症状や所見があれば閉鎖の適応がある。無症状であっても肺体血流比(Qp/Qs)が1.5以上であれば閉鎖を考慮する1)。近年では心カテーテル検査を行わず,心エコーである程度のサイズのASDがあって右心室の拡大がみられれば治療適応と判断することが多い。ASDサイズと短絡率の検討では,標準体格の成人では最大径10mmがQp/Qs=1.5に相当するとされる。治療の目的は,ASDの自然歴として経時的に進行する心不全,房室弁逆流,肺高血圧,不整脈などの病態が不可逆的となる前に短絡をなくし,予後を改善することにある。成人では肺血管抵抗が上昇した症例も少なくないが,薬物治療によって閉鎖適応域に入り閉鎖術を行える症例も多い。