在宅医療の対象となる要介護高齢者において,しばしば遭遇するのは,脊椎骨圧迫骨折,大腿骨頸部骨折(転子部骨折を含む),上腕骨外科頸骨折(近位部骨折),橈尺骨遠位端骨折である。受傷機転は,車椅子からトイレへの移乗に失敗した程度の軽微な外傷が多く,脆弱性骨折と考えられる。歩行可能な例では,転倒しなくとも骨盤(恥骨枝,坐骨枝)の疲労骨折や,車椅子の例では,通所ケアの送迎車が揺れた程度でも胸腰椎移行部の圧迫骨折を生じることがある。
▶治療の考え方
本稿では,既に要介護状態で認知機能が低下し,骨折治療への協力が得られにくい症例を対象とし,さらに整形外科を専門としない内科系医師を念頭に置いた,脆弱性骨折の管理について述べる。なお,骨折患者が標準治療の意義を理解し,医師の説明によって治療法の選択が可能であれば,整形外科医に紹介し,専門的治療を行うべきである。
治療の原則は,解剖学的整復位で固定し,早期の後療法実施である。治療期間を短縮し,治療効果を高めるために観血的治療(手術療法)を選択することも多い。しかし,要介護高齢者の脆弱性骨折では,一般的な骨折と治療の到達目標が異なる。受傷前のADLが低い症例では仮に変形治癒や偽関節が生じても,骨折で生活機能をいっそう低下させることは少ない。そこで,患者が望まない形で在宅医療を中断させないように,在宅療養を継続しながら非観血的治療(保存的治療)を選択し,QOLの観点から,骨折治療だけに目を奪われないようにすることが重要となる。たとえば,入院治療を選択したことで,入院直後よりせん妄状態に陥り,目的とした治療を実施できないということもある。また,骨折は治癒したものの,入院関連機能障害により著しく活動性が低下した症例も少なくない。