●メリオイドーシス(類鼻疽)とは1)
腐敗性のグラム陰性桿菌であるBurkholderia pseudomalleiが原因菌で,熱帯地域の土壌や水中に広く分布しています。通常,吸入,皮下侵入,時に経口感染で起こります。ヒト-ヒト感染は稀に感染者の血液や体液を介して起こります。
東南アジア,オーストラリア北部,パプアニューギニア,インド亜大陸の大部分,中国南部,香港,台湾で地域流行している感染症です。このうちタイ北東部,マレーシア,シンガポール,オーストラリア北部では高頻度で流行していると推定されています。
潜伏期間は通常1〜21日ですが,数カ月から数年に及ぶこともあります。一方,2~3時間のうちに重篤になることもあります。無症状のこともありますが,皮膚などの局所感染症,肺炎,髄膜脳炎,敗血症,慢性化膿性感染症を起こします。発熱,体重減少,湿性咳嗽を認め,上葉浸潤影に空洞を伴い,結核に類似することもあるため,結核との鑑別が重要になります。患者の50%以上が肺炎症状を呈し,適切な治療を行わない場合,発症48時間以内の死亡率は90%に達します。糖尿病,腎機能不全,慢性肺疾患,免疫不全の基礎疾患のある人に注意が必要です。
血液,痰,膿,尿などの臨床検体を用いた培養検査で診断され,セフタジジム,イミペネム,メロペネム,ST合剤などの抗菌薬で治療します。四類感染症に指定されており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出る必要があります。現時点では有効なワクチンはありません。
●台湾で台風4号(ダナス)後に増加 2)3)
台湾では,7月初旬に台風4号(ダナス)により大雨と洪水が発生しました。メリオイドーシスの原因菌は土壌や水中に広く分布しているため,台風後にメリオイドーシスが流行する傾向があります。2025年7月15〜21日までの期間に,台風直後の台湾南部・高雄市でメリオイドーシス6人の症例(うち2人の死亡)が確認されました。感染者は50〜90歳で,高血圧,糖尿病,心血管疾患,肝疾患などの慢性疾患を患っていました。死亡した2人は台風中または台風後に下水汚泥への曝露歴がありました。
台湾の国立感染症統計システムによると,今年(2025年7月22日時点)は27件の現地感染例が報告されており,そのうち22件が高雄市で発生しています。2025年の確認例は,前年同期間の7件と比較して約4倍に増加しています(第29週時点)。台湾の保健当局は,一般市民に汚染された水との接触を避け,台風後の残骸の清掃時には保護具を着用するよう呼びかけています。
日本では,現在はメリオイドーシスの原因菌であるBurkholderia pseudomalleiは土着しておらず,メリオイドーシスは輸入例のみになります。台湾や,発生頻度が高いタイ北東部,マレーシア,シンガポール,オーストラリア北部等への渡航歴がある患者で,原因不明の発熱・呼吸器症状や肺野の空洞性病変を認める場合は,結核以外にもメリオイドーシスの可能性を考えて診療することが大切です。
【文献】
1) 厚生労働省:メリオイドーシス(類鼻疽).(2025年7月25日アクセス)
2) Taiwan National Infectious Disease Statistics System:Melioidosis.(2025年7月25日アクセス)
3) Taiwan News:Typhoon Danas triggers melioidosis spike in south Taiwan.(2025年7月25日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。