▶私の治療方針・処方の組み立て方
筋麻痺,心電図変化(伝導障害,種々の不整脈など)を伴う高カリウム血症(高カリウム血性緊急症)では致死性不整脈を生じる可能性があり,原疾患にかかわらず急速な治療を必要とする。腫瘍崩壊,消化管出血などでは,一時的に血清K濃度が低下しても,速やかに再上昇をみることが多く,慎重に経過観察を行う。通常,血清K濃度5.5mEq/L以下では薬物治療を必要としない。
▶治療の実際
【重篤な高カリウム血症(高カリウム血性緊急症)】
心電図変化を伴う高カリウム血症(AVブロックなどの伝導障害,徐脈,心室性頻拍,P波消失,QRS拡大などの場合),または血清K濃度6.5mEq/L以上の場合は以下とする。
一手目 カルチコール®8.5%注(グルコン酸カルシウム水和物)10mL(3分以上かけて静注。必ず心電図モニター下に行う),10%ブドウ糖液500mL+ヒューマリン®R注(インスリンヒト)10単位(60分かけて点滴静注),併用
腎機能低下例(eGFR 30mL/分/1.73m2以下)では血液透析を考慮する。
二手目 〈一手目に追加〉ラシックス®注(フロセミド)1回20mg(静注)
必ず別の体外へのK除去法を併用する。
三手目 〈二手目と同時,または単独で〉ロケルマ®懸濁用散分包(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)1回10gを水で懸濁の上1日3回(毎食後)
透析患者,あるいは重度の腎機能低下症例では,ラシックス®,ロケルマ®の投与を行いつつ透析の準備を開始する。
【軽症~中等症の高カリウム血症】
血清K濃度5.5mEq/L以上,6.5mEq/L未満で心電図変化のない場合は以下とする。
一手目 ロケルマ®懸濁用散分包(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)1回5gを水で懸濁の上1日 1回で開始(1日3回まで増量可)(食後)
【高カリウム血症に代謝性アシドーシスを伴う場合】
一手目 ロケルマ®懸濁用散分包(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)1回5gを水で懸濁の上1日3回(毎食後),炭酸水素ナトリウム散(炭酸水素ナトリウム)1日3g 分3(食後),併用
炭酸水素ナトリウムが慢性的な高カリウム血症治療に有用であるというエビデンスはない。しかし,高カリウム血症の多くは慢性腎臓病患者であり,慢性腎臓病の進行抑制に炭酸水素ナトリウムが有用であるというエビデンスが集積されつつある。
▶専門家へのコンサルト
重篤な高カリウム血症で,GFR<15mL/分/1.73m2の場合は,しばしば血液透析が必要となる。一手目(カルチコール®,ブドウ糖・インスリン)を開始すると同時に,腎臓内科医にコンサルトすることが望まれる。軽症・中等症の場合は,これまでイオン交換樹脂の内服が広く行われてきたが,消化管に問題のある症例では特にロケルマ®を使用することが好ましく,使用経験が少ない場合は腎臓専門医へのコンサルトを考慮する。
林 松彦(河北総合病院臨床教育・研修部部長)