▶治療の実際
一手目 PCIを施行できる施設にコンサルト
二手目 バイアスピリン®100mg錠(アスピリン)1回2錠(かみ砕いて内服)
三手目 ニトロペン®0.3mg舌下錠(ニトログリセリン)1回1錠
一手目が非常に重要であり,最優先すべきである。二手目・三手目はPCI施行可能施設への搬送準備の際に時間があれば考慮する。血圧低値や右室梗塞が疑われる症例では,ニトログリセリンは使用してはならない〔右室梗塞は右側胸部誘導(V4R)のST上昇で診断する〕。また,徐脈やショックバイタルで来院する症例もあり,補液や昇圧薬点滴,硫酸アトロピン静注など,バイタルサインの安定化に努める必要がある。加えて,心室頻拍や心室細動などの致死的不整脈が生じる可能性もあり,心電図モニターの装着が必須である。致死的不整脈が生じた場合には胸骨圧迫や電気的除細動を速やかに施行する。
▶偶発症・合併症への対応
特に発症から時間が経過して来院した症例では,心室中隔穿孔,心破裂,乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全などの機械的心合併症が生じる可能性があり,胸部聴診やバイタルサインの注意深い観察が必要となる。
▶非典型例への対応
脚ブロックの心電図ではST変化がわかりにくいことが多い。特に左脚ブロックの症例でST変化を指摘するのは難しいことが多い。新規の左脚ブロックを合併した心筋梗塞は予後不良であることが知られており,左脚ブロック例で症状が持続し心筋梗塞が強く疑われる場合には,STEMIと同様に早急な対応が必要と考えられる。
▶専門家へのコンサルト
繰り返しになるが,STEMIの場合,PCI施行可能施設への早急なコンサルトと速やかな転院搬送が必要である。日頃から近隣のPCI施行可能施設と連携をとっておくことが重要である。
▶患者への説明のポイント
東京都における,循環器疾患集中治療室(cardiac care unit:CCU)に収容された急性心筋梗塞患者の死亡率は5.4%と言われている2)。PCI施行可能施設が多く存在する東京都での数値であることを考えると,それ以外の道府県では死亡率がさらに高いと考えられる。また,この数値に含まれていない,院外で突然死を起こしている症例も多く存在する。早急にPCI施行可能施設に搬送することが救命のために何より重要であることを短時間で説明し,理解を得る必要がある。
【文献】
1) 日本循環器学会, 他:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).
http://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/
2) 東京都CCUネットワーク:研究会報告(疾患の動向) 東京都CCUネットワークの活動状況報告2018.
https://www.ccunet-tokyo.jp/ccu/activity/report
佐々木 航(岩手医科大学内科学講座循環器内科分野)
森野禎浩(岩手医科大学内科学講座循環器内科分野主任教授)