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【識者の眼】「診断エクセレンス(3):胆嚢のフィジカル」徳田安春

登録日: 2022.08.02 最終更新日: 2025.09.20

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

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最近、カンファレンスで膵頭部癌のケースが提示されていたのを拝見した。40代女性。主訴は、瘙痒感の後に出た黄疸。腹部CTで総胆管と肝内胆管の拡張を認めたので、閉塞性黄疸であるが、その時点からがん診断まで4週間かかっていた。その理由は、明らかな腫瘤性病変がCTでは認められなかったから、という。

しかし、腹部CTは、クルボアジェ徴候(Courvoisier sign)を表す著明な胆嚢腫大を示していた。クルボアジェ徴候とは、無痛性の胆嚢腫大を触れるもの。膵頭部癌等の腫瘍による閉塞性黄疸を示唆していた。

クルボアジェ徴候より重要なのは、クルボアジェの法則だ。閉塞性黄疸で、胆嚢が著明に腫大しているとき、結石による閉塞の可能性は低く、腫瘍性を考えるべきという法則だ。胆嚢胆石ができるとき、胆嚢では慢性炎症による線維化が起こるために、胆嚢は著明な拡張をきたすことができない、という法則。クルボアジェの法則により、当初からこのケースでは腫瘍による閉塞性黄疸を考えるべきと思われた。

次に、胆嚢のフィジカルで最も有名なのはマーフィー徴候(Murphy sign)だろう。検者は肝下面から肝臓に向かって揃えた指先を差し込む。そこで患者に深く吸気をしてもらい、深吸気が制限されれば陽性だ。急性胆嚢炎を示唆する徴候である。これはrule-outに使うのではなく、rule-in、すなわち、検査前確率をアップさせるものとすべきだ。急性胆嚢炎疑いであれば、そのまま腹部超音波検査を行い、超音波マーフィー徴候(sonographic Murphy sign)を診ればよい。胆嚢壁肥厚や三層構造なども併せて診ることができる。

「感度が100%ではないからマーフィー徴候は役に立たない」と考えてはならない。「急性心筋梗塞で胸痛の感度は100%ではないから胸痛という症状は役に立たない」という考えと同じだ。病歴と検査だけでなく、医学史の荒波の中で残ってきたフィジカル所見とその有用性も重視することが、診断エクセレンスにつながると思う。

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[クルボアジェの法則][マーフィー徴候]

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