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佐藤泰然(13)[連載小説「群星光芒」235]

登録日: 2016.10.04 最終更新日: 2025.09.20

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産婦の陰門から飛び出した小さな左腕と臍帯が、横位に在る胎児の位置を変える邪魔をしていた。
産科医の伊古田純道はメスを取り出し胎児の左腕と臍帯を切除した。つづいて助手の産科医岡部均平が腹上より回転術を試みたが、胎児はびくともしない。

「頭が大き過ぎて閊えているのだ」

そう判断した純道は、穿頭錐を用いて胎児の脳を取り出し頭蓋を小さくすることにした。左腕の付け根のすぐ上が胎児の頸の辺りと見当をつけて穿頭錐を陰門に差し込んだ。錐先で頭骨に孔をあけると、どろりと脳漿が溢れ出た。次いで、砕頭器を用いて胎児の頭蓋をぐしゃりと砕いた。ここで子宮に手を差し入れ小さくなった胎児の娩出をはかったが、思うように出てこない。産婦は苦しがって呻き声を上げる。

「かくなる上は蘭書にあるケーゼルレーキスネーチ(帝王切開)により子宮を截ち割るほかあるまい」

決心した純道はメスを手に取り、産婦の臍の左側で5寸あまり皮膚を縦に切り開いた。産婦は目をかっと見開き、歯を食いしばって身を捩る。周りの産婆たちも必死になって産婦の手足を抑えた。


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