▶治療の実際:薬物療法
精神興奮などが,本人,家族や介護スタッフの安全を脅かす場合には対症的鎮静が必要となり,抗精神病薬などの使用を検討することとなるが,BPSDに対する非定型抗精神病薬,あるいは定型抗精神病薬の使用で死亡リスクが高まるとして,FDA(米国食品医薬品局)が警告を出していることを忘れてはならない。
【陽性徴候に対する薬物療法】
幻覚,妄想,興奮,易刺激性などの陽性症状には以下を投与する。
〈処方例〉
一手目 :(特に高齢者の場合)クエチアピン25mg錠1回1錠1日1回から開始し漸増(糖尿病禁忌),またはリスペリドン0.5mgOD錠1回1錠1日1回から開始し漸増,またはクロルプロマジン12.5mg錠1回1錠1日1回から開始し漸増
アルツハイマー型認知症であれば,メマンチン5mg錠を20mgまで漸増するのも良い。またレビー小体型認知症の幻視に対し,ドネペジル3〜10mg錠の投与が効果的なことも多い。抑肝散,抑肝散加陳皮半夏,柴胡加竜骨牡蛎湯の単独ないしは併用投与を試みてもよい。血管性認知症で体力が充実している人に黄連解毒湯の投与が効果的な場合もある。
二手目 :〈処方変更〉(興奮が強い場合,飲ませやすさを考慮して)リスペリドン内用液1回0.5mL(0.5mg)1日1回から開始,またはオランザピン2.5mgOD錠1回1錠1日1回から開始(糖尿病禁忌),またはブロナンセリンテープ20mg 1日1枚(貼付)
(非)定型抗精神病薬の使用は適用外使用でもあり,特に高齢者では,錐体外路症状や心電図でQT延長などの有害事象も生じやすいことから,本人・家族に十分説明し,それらに十分留意(モニタリング)することが必須である。
【陰性徴候に対する薬物療法】
無気力,無為,無関心などに対して,ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬の投与が効果的なことがある。少量のドパミン作動薬が効果的なこともあるが,せん妄の誘発には注意を要する。一方,人参養栄湯の併用は安全に使うことができるので試みたい。抑うつには,エスシタロプラムなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を試みる。
【文献】
1) 山口晴保, 他:認知症ケア研究誌. 2018;2:1-16.
2) 伊東美緒:認知症の方の想いを探る―認知症症状を関係性から読 み解く.介護労働安定センター, 2013, p7-24.
大澤 誠(大井戸診療所理事長・院長)