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【識者の眼】「NICU管理料と補助金─命を守る初心を忘れずに」豊島勝昭

登録日: 2025.09.29 最終更新日: 2025.09.25

豊島勝昭 (神奈川県立こども医療センター新生児科部長)

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1986年に新生児集中治療室(NICU)の施設基準とNICU管理料が診療報酬制度に組み込まれ、日本の新生児医療は大きく整備されました。全国のNICUで働く医師が「新生児医療連絡会」を結成し、周産期医療の現状をデータ化して厚生労働省に提供したことで、NICU管理料が制度化されました。

現在、NICU管理料1が1日当たり10584点、NICU管理料2が8472点とされ、9万〜10万円前後の診療報酬が一定期間算定されています。1990年代からは、都道府県が指定する総合周産期母子医療センターおよび地域周産期母子医療センターの整備が進められ、国と都道府県から病床数に応じた補助金が交付される仕組みが広がりました。NICU管理料や補助金により、多くの病院で、24時間体制の人員配置や高額機器を備えたNICUを維持することができる財政基盤が整いました。

これにより日本は、患者家族は高額な医療費を心配することなく、どこで生まれても必要な医療を受けることができる周産期体制が構築され、新生児死亡率のきわめて低い国となりました。これは、NICUの現場スタッフの努力だけでなく、厚生労働省・地域行政・病院管理部門など多くの関係者の理解と尽力があってこそと考えます。

2024年度の診療報酬改定では、スーパーNICU加算と呼ばれる「新生児特定集中治療室重症児対応体制強化管理料(1日当たり14539点)」が新設され、昼夜を問わず2:1の看護配置(患児2人に対し看護師1人)を実現でき、重症新生児診療のさらなる質の向上が期待されます。こうした行政と連携して実現してきた制度や体制が形骸化することなく、尽力された関係者の初心を受け継ぎ、未来に活かし続けたいと願っています。

一方、大学病院や自治体病院の経営悪化により、多くのNICUで保育器や人工呼吸器などの生命維持装置の更新が困難となっています。過重労働が指摘されてきたNICUにおいて、医療の質と安全を保ちつつ働き方改革を進めるには、人員の補充が必要になります。しかし、経営上それは難しく、手薄な人員配置が常態化しているNICUもあるのが現実です。

小児科は収益性が低く、赤字部門とされがちですが、NICU管理料や補助金は多くの病院の経営の柱となりつつあります。しかし、本来、各病院に交付されるNICU管理料や補助金は、周産期医療の整備に適切に運用されるべき資源です。各地域で、院内外の医療・行政の関係者で、各NICUの診療状況を確認しながら、それぞれの課題に応じた補助金の適正な運用をめざしたいです。

それは、NICUの地域連携や役割分担を明確にし、各地域で産まれる赤ちゃんたちのためのNICUの「適正配置」にもつながっていくと考えます。

NICUのスタッフは、病院の赤字補填のために働いているわけではありません。治療が必要で、やむをえず家族と離れて入院する赤ちゃんを1日でも早く家族のもとへ返したいと願い、24時間体制で命に向き合っています。NICUは病院経営のためにあるのではなく、未来を生きる子どもと家族を守る社会的インフラです。この認識を共有し、関係者が立場を越えて心と力を寄せ合うとき、財政難の時代であっても新しい命を守り続けることができると信じています。

豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科部長)[新生児医療][NICU

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