検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「10月13日は『失敗(を称える)』の日」森川すいめい

登録日: 2025.09.30 最終更新日: 2025.09.25

森川すいめい (NPO法人TENOHASI理事)

お気に入りに登録する

財政破綻の危機を乗り越えた島、海士町。島根県隠岐郡、日本海に浮かぶ中ノ島を主島とする1島1町の自治体である。

「平成の大合併」の際には、人口も減り続け、財政状況も悪化し、「財政破綻するのは、夕張市よりも先か次か」と言われていた。そんな海士町に2002年、改革派の町長が誕生する。2004年には「海士町自立促進プラン」を策定。町役場の人件費を大幅に削減し、その分を町の産業や支援に還元した。

いまや、人口約2300人のうち約2割が移住者で、毎年300人以上が島留学などで出入りする。「半官半X」「ないものはない」「島留学」「お山の教室」「高校魅力化プロジェクト」「未来共創基金」「ヒトツナギ部」「アンバサダー制度」など、本稿で書ききることのできないほどの革新的なプログラムで溢れている。

2008年、海士町の高校は生徒数が30名を切り、廃校か否かの議論も湧き上がっていた。何もしなければ廃校、それも仕方がないといった声もあった。「高校がなくなる意味」についての議論を尽くしたとき、それは単に高校がなくなるという意味ではないとわかっていく。中学校を卒業した生徒が、島から外に出なくてはいけなくなる。このとき、親世代も一緒にいなくなるから島の人口が減る。こうして「高校魅力化プロジェクト」が立ち上がる。結果から言うと、生徒の数が増え、教室は2倍となり、先生の数も増えて高校は活気づいた。今では生徒の約6割が島留学生で、推薦入試の倍率は約2.8倍だ。生徒が増えたことで部活もできるようになったという。

活動の一つひとつが魅力的で、そのうちの1つが「ヒトツナギ部」である。「部活ができるということは、活気も生まれた反面、参加しない人たちも生まれます。運動などに参加しない生徒たちは、孤立しがちにみえました」。高校は、自治権を生徒たちに少しずつ委ねながら一人ひとりの力を信頼する。部活に参加しない生徒たちは、ヒトツナギ部をつくる。彼らはヒトとヒトをつなぐ。「そうしたかったから」と。地域の手伝い、海岸清掃、夏の旅企画などのイベントを実施した。結果、島内外の多様な人とたくさんのつながりを生み出した。

高校の経営スローガンは「失敗を共に称え合う学校」だ。「失敗を共に称え合い、未来への踏み込みを宣言する1日」として、2022年度から独自の学校行事「失敗の日」をスタートさせる。他でもやっているだろうかとリサーチしたところ、フィンランド発祥の記念日があると知り、その10月13日に合わせて「失敗の日」を制定した。予算と権限は生徒にある。

「失敗すると怒られる」文化がある。10月13日は、それが払拭される日。失敗したってよいという寛容さを文化にする。それは失敗を称え合う日となり、あえて挑戦する日にもなった。「学校の先生が最初に自分の失敗を話しました」。それで生徒たちは自分の失敗を語りはじめる。他の人の失敗を聞き、自分の失敗を語り、それは互いへの批判を消し、互いを称えることになった。寛容さを創造したのだ。

森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[精神科

ご意見・ご感想はこちらより


1