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【識者の眼】「診断書ビジネス」浅川敬太

登録日: 2025.09.29 最終更新日: 2025.09.25

浅川敬太 (梅田総合法律事務所弁護士、医師)

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臨床に従事する医師である以上、診断書を作成する責務から逃れることはできません。

法的には、医師法第19条第2項において、「診察(・・・・・・)し、(・・・・・・)た医師は、診断書(・・・・・・)の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない」と規定され、診断書の作成が医師の社会的責務であることが確認されます。

また、刑法第160条では「虚偽診断書等作成罪」が設けられています。通常の公文書・私文書の偽造・虚偽作成とは別個に、医師が虚偽の診断書を作成する行為が犯罪を構成することを定めていますが、これは、医師の作成する診断書は公的色彩が強く、内容の真実性が担保される社会的必要性が高いから、社会に大きな影響を与えるものであるからとされています1)

実務において、診断書が与える社会への影響力は、強大です。

交通事故、各種の保険金請求の紛争、遺言の有効無効を争う紛争、労災事件・・・・・・民事関係だけでも、本当に様々な事件で、診断書(およびその内容)が重要な役割を果たします。

私は、職業柄、数多くの診断書を目にする機会がありますが、近時、医学的な評価の記載を超えた診断書を見ることが増えた気がします。具体的には、患者さんの意見・意向をそのまま記載したような診断書です。病名しかり、治療期間しかり、後遺障害の程度しかりです。

おそらく「◯◯と書いた診断書がほしい」とか、「診断書に△△と記載してほしい」と訴える患者さんが多くなった面があるのではないかと想像します。しかし、他方で、「即日診断書発行可」とか、「即日、休職に入れます」といった文句を発信している医療機関も増えてきています。

医療機関の経営が厳しいとされる昨今、患者を誘引するための文句として効果的なのでしょう。しかし、見ず知らずの人に対して、即日に診断書を発行することができると約束するのは、見切り発車というか、少し大きく出過ぎているのではないかとも感じます。

診断書を取り巻く状況が、冷静で、正常なものに戻ることを切に望みますが、おそらく、医療者だけの問題というわけではなく、もっと根深く、社会全体の問題なのだという気もしています。

【文献】

1) 大塚裕史, 他:基本刑法2─各論. 第3版. 日本評論社, 2023, p339.

浅川敬太(梅田総合法律事務所弁護士、医師)[診断書

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