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【識者の眼】「直美、自治医大義務、人生会議─3つに共通するもの」名郷直樹

登録日: 2025.09.30 最終更新日: 2025.09.25

名郷直樹 (武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)

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初期研修終了後、専門医研修をせずに直接美容外科に進むことを「直美(ちょくび)」と呼ぶらしい。さらに、「直美」を選択する者が10年前と比較して12倍になっているという。

本来であれば形成外科の専門医を取得した上で美容外科に進むというのが、医療を受ける側、提供する側の双方にとって重要と思われるが、その点が無視されている。専門医研修を飛び越えて、高給を得ることができるということが、「直美」を選択する者が激増している最大の理由だろう。

医師の働き方改革を推進していく中で、初期研修は大幅に改善された。その反面、その後の専門医研修にしわ寄せが行く。過酷な研修は避けたい。そう考えるのも無理はない。「直美」は、働き方改革が引き起こしたことでもある。

また、人権を無視した過酷な労働環境で働くことはできない。当直や時間外の呼び出しが少なく、高給を得ることができる美容外科を選ぶことは、労働者である医師として、当然の選択であり、現代では受け入れやすい主張だろう。その選択に反論することは困難だ。

この「直美」増加の背景は、自治医大のへき地勤務義務化で起こっていることと似ている点がある。自治医大の義務も初期研修終了後に、へき地へと赴任する「直へき」である。へき地勤務に専門医の取得は不要で、給与も美容外科ほどではないが、専門医研修の医師よりは高給であることが多い。しかし、「直美」は増えるばかりだが、へき地では医師が不足するばかりである。この点は真逆である。へき地勤務の多くは医師が不足している中で、過酷な仕事であることが要因だろう。また、へき地勤務が義務であることが、人権無視と考えられる点も大きな違いだ。実際に起こっていることは真逆だが、医師にとっての労働環境が重要、医師の人権が重要ということを示している点で似ているとも言える。

さらに、人生会議である。個人の意思に沿って、自由に、自己決定できることが重要である。自由に専攻科を選ぶことができるということにも重なる。美容外科へ進むことを自己決定する自由、へき地勤務を拒否することができる自由が重要、まさに同じである。

「直美」も、へき地への赴任拒否も、人生会議も、誰にも止められない。むしろ社会はそれを後押しする。

しかし、「直美」を選択することができることも、へき地へ赴任しなくてすむことも、死に方を自己決定できることも、個人の能力や努力の問題だけではない。個人の能力と言っても、社会全体の支えの中で、たまたまその人に起こったことにすぎない。個人の能力と考えるものも、たまたま授かった他者からの贈り物の結果でもある。だとすれば、自分だけが幸せになるのではなく、自分以外が幸せになるために働くほうがよいのではないだろうか。親に、教師に、友人に感謝するだけでは足りない。自分とは関係のない人も、実は自分に関係している。そのすべての人に向けて感謝し、それに報いるということは、幸せな人生ではないだろうか。それが、過酷で、自分の人権がいくらか阻害されるような面があったとしても。

名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)[自治医大][直美

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