1988年に発売されたRPG『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ・・・』では、ストーリーが進むと空を飛べるようになるというクエストがあります。空を飛んでいる間は「おおぞらをとぶ」というBGMが流れ、これまで歩いて旅してきた数々の土地や海が眼下に広がります。思いがけない場所同士が隣接していたり、これまでたどり着けなかった場所へと降り立てるようになったりします。
ただ、現実の日本では、コロナ禍で英雄的な活躍をみせた医療従事者や医療機関が、今まさに苦境に立たされています。コロナ対策の補助金が打ち切られ、診療報酬の引き下げが現実となり、かつての「臨時収入」が途絶えたことが大きな打撃となっています。以前から、2025年前後には多くの都市部で高齢者人口と医療ニーズがピークを迎えると予測されてきました。一方、ベッドタウンを含む都市部以外の地域では、既に高齢者人口の減少が始まっており、今後医療ニーズが増加に転じる可能性は低いとみられています。
こうした中、2019年9月、厚生労働省は全国424の公的病院について、診療実績が乏しく非効率な医療をまねいているとして、再編・統合を促すとともに病院名を公表しました。この分析には、多くの問題点が指摘されているものの、地域医療構想や補助金、基金によって病院の選別や再編を推進していくことになるのでしょう。
ただし、これは中央省庁にとっても、日本医師会にとっても、経験をしたことがない“撤退戦”です。地方の医師会では一足先に撤退を迎えている地域もあり、あるいはその最中にあるところもありますが、その「戦訓」を共有する仕組みは存在しません。
軍事における撤退戦と類似点はありますが、もちろんすべてが同じではありません。軍事作戦においては後備を置き、殿軍を定め、拠点を段階的に撤退させて、敵の追撃に備えるのが定石です。しかし、地域医療における撤退戦では、医療機能を段階的に中心部へ集約させつつ、在宅医療や内科外来、1次救急はできる限り最後まで残し、中核的病院との連携を維持し続ける工夫が必要です。
また、介護保険施設も計画的に縮小していく必要があります。これに失敗すれば、統制を失い、複数の市町村を巻き込んだ医療・介護体制の崩壊をまねく可能性もあります。
統計は俯瞰的に多くの情報を与えてくれますが、その数字が意味するところを正しく受け取るためには、実際に「地面を歩き回る」ような経験が欠かせないと感じます。空の上からすべてがみえる、というのは思い上がりに過ぎないのかもしれません。
「わぁ〜・・・・・・ひとがゴミのようだ」アーニャ・フォージャー〔遠藤達哉『SPY×FAMILY』(集英社)〕
中村利仁(社会医療法人慈恵会聖ヶ丘病院内科)[地域医療構想]