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アトピー性皮膚炎の病因に関する新知見と診断・治療

No.4733 (2015年01月10日発行) P.55

佐伯秀久 (日本医科大学皮膚科教授)

登録日: 2015-01-10

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)について下記を,日本医科大学・佐伯秀久先生のご教示をお願いします。
(1) ADは遺伝的な体質や様々な環境因子,精神神経的な要素が複雑に絡み合って発症するとされますが,病因に関する新しい知見について。
(2) 病勢を評価する検査項目について。
(3) どのような治療が効果的でしょうか。
【質問者】
矢上晶子:藤田保健衛生大学皮膚科准教

【A】

(1)病因に関する新知見
ADの病因に関して,近年明らかになってきた知見をいくつか紹介します。
ADは一般にTh2優位の疾患ととらえられています。また,慢性に経過することが知られています。ADの慢性化の原因の1つに,periostinという蛋白が重要な働きをしていることが明らかになってきました。Th2細胞からはIL-4,IL-13などTh2型のサイトカインが産生されますが,これらのサイトカインは線維芽細胞を刺激してperiostinを産生させます。periostinは角化細胞に働きかけ,TSLP(thymic stromal lymphopoietin)という炎症性サイトカインを産生します。TSLPは樹状細胞に働きかけてナイーブT細胞をTh2細胞にシフトさせます。このような悪循環の成立が,ADの慢性化の要因の1つと考えられています。
ADでは痒みが必発症状ですが,T細胞などの免疫系と,C-fiberなどの痒みの伝達に関与する神経系を橋渡しするサイトカインとして,IL-31が重要な役割を果たしていることがわかってきました。Th2細胞はIL-31を産生しますが,IL-31はC-fiberに働きかけて,痒みを脳に伝えることが明らかになりました。
また,遺伝学的な解析から,filaggrinという蛋白をコードする遺伝子が疾患感受性遺伝子(病気のなりやすさを決める遺伝子)の1つであることが明らかになりました。ADはアレルギー的な要因以外に,皮膚バリア機能異常があることが知られていましたが,filaggrinは天然保湿因子のもとになる物質なので,皮膚バリア機能異常の側面が遺伝学的にも裏づけられたことになります。
(2)病勢を評価する検査項目
ADの病勢を評価する検査項目として,今まで末梢血好酸球数,血清IgE値,LDH値などが知られていました。近年,Th2型のケモカイン(細胞を引き寄せる生理活性物質)である血清中のTARC(thymus and activation-regulated chemokine)値が,ADの皮膚病変の程度を非常によく,しかも短期的に反映する指標であることが示されました。そこで,2008年よりADの重症度評価補助の目的で,血清中のTARC値を月1回に限り測定することが可能になりました(保険適用)。
(3)標準的治療法
ADの標準的な治療は以下の通りです。
ADの炎症に対してはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏による外用療法を主とします。皮膚バリア機能異常には保湿剤外用などを含むスキンケアを行います。痒みには抗ヒスタミン薬の内服を補助療法として併用します。そして,悪化因子を可能な限り除去することを治療の基本とします。
なお,以上の標準的な治療を行っても難治で最重症な成人(16歳以上)ADに対しては,短期的な寛解導入療法として,シクロスポリンの内服を行うこともあります(2008年に保険適用)。

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