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鉄欠乏性貧血[私の治療]

No.5210 (2024年03月02日発行) P.36

川端 浩 (京都医療センター血液内科・稀少血液疾患科診療科長/診療部長)

登録日: 2024-02-29

最終更新日: 2024-02-27

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  • ヘモグロビン合成に必要な鉄が不足することで生じる貧血。月経のある年代の女性の5人に1人でみられる。鉄欠乏では,貧血以外に,異食症(氷などを無性に食べたくなる),情緒障害,さじ状爪,口角炎,舌炎,血小板増多などをきたすことがある。

    ▶診断のポイント

    小球性の貧血がみられ,体内貯蔵鉄のマーカーである血清フェリチン値が低下していれば鉄欠乏性貧血と診断できる。日本鉄バイオサイエンス学会では,血清フェリチン値の正常値を25~250ng/mLとし,12ng/mL未満を鉄欠乏症としている。ただし,慢性の炎症性疾患や維持透析中の患者では,鉄欠乏があってもフェリチン値が低下しないことがあるので,その場合にはトランスフェリン飽和度〔血清鉄÷総鉄結合能(TIBC)〕20%未満を基準に鉄剤投与を考慮する。鉄欠乏性貧血には必ず原因がある。特に男性や,月経のない年代の女性では,消化器癌など重大な疾患がないか,原疾患の検索が重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    鉄欠乏の原因にかかわらず鉄の補充を行う。治療可能な原疾患があれば並行して治療する。

    鉄の補充には経口鉄剤を用いるのが原則である(分服せず1日1回投与)。副作用などのために鉄剤の内服が困難な場合や,慢性出血で喪失する鉄の量が多い場合,消化管からの鉄の吸収障害がみられる場合,炎症性腸疾患などで鉄剤内服が不適当な場合,および高度の貧血のため迅速な鉄の補充が必要な場合には,経静脈的な鉄の投与を検討する。明らかな心不全症状をきたしている場合を除けば,赤血球輸血は不要である。

    【治療上の一般的注意】

    経口鉄剤に共通する副作用として,悪心,嘔吐,腹痛,下痢などの消化器症状がある。こういった副作用は,内服のタイミングを朝食後から夕食後に変えたり,隔日投与にしたり,他の経口鉄剤に変更したりすることで,軽減されることがある。甲状腺ホルモン薬,テトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬,タンニン酸アルブミン,酸化マグネシウムは,鉄の吸収阻害作用があるので,同時に内服しない。

    静注鉄剤は,過剰に投与した場合に鉄過剰症をきたす恐れがあるため,あらかじめ内田の式(または添付文書内の簡易表)によって必要な総鉄投与量を計算し,計画的に投与する。副作用として発熱,蕁麻疹などの過敏症状がみられることがある。また,血管外に漏出すると色素沈着をきたすので注意を要する。長期にわたって静注鉄剤を繰り返し使用する場合は,低リン血症を介した骨軟化症を発症することがあるので,血清リン値をモニタリングする。高用量の静注鉄剤では,投与後に一過性の高フェリチン血症がみられるが,これは網内系細胞への鉄の取り込みを反映した現象である。高用量鉄剤の再投与の必要性については,投与から少なくとも1カ月以上あけてから血清フェリチン値を測定して検討する。

    *内田の式:総鉄投与量(mg)={2.2×〔16-ヘモグロビン(g/dL)〕+10}×体重(kg)

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