株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

完全房室ブロック【後編】/Complete AV block[Dr.ヒロの学び直し!心電図塾(第33回)]

No.5182 (2023年08月19日発行) P.10

Dr.ヒロ|杉山裕章

登録日: 2023-08-18

最終更新日: 2023-08-16

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回も「完全房室ブロック」を扱いたいと思います。前回は心電図診断をどうするかを中心に述べましたが,今回は【応用】として,病態について深掘りしたいと思います。

▶刺激伝導系と固有心拍数

はじめに刺激伝導系の基本事項から復習してみましょう(図1)。

洞結節から発せられ,心房(2階)を経たシグナルは,房室結節(AV node)*1へ入ります。いわば“前室”であるここでシグナルは大きく減速し,心室の世界へと入っていく“心の準備”を整えます。

医学生の頃,不勉強なボクは心房と心室の境目はこの房室結節かと思っていました。ただ,あえて“前室”と言いましたよね?期外収縮でも,心房と房室接合部(房室結節の周辺)が起源なものを「上室(性)」と一括するように,“前室”(房室結節)は“中2階”,つまり2階(心房)の一部と思っておきましょう。

では,心室(1階)への“扉”はどこかというと,これはヒス束(bundle of His)と呼ばれる組織になります(Wilhelm His Jr.が1893年に発見)。房室結節に比べるとあまり馴染みはないかもしれませんが,一般的にはここからが心室ワールドに分類されます。

ヒス束は,房室結節と脚(bundle branch)とを仲介する長さ2cm弱の組織で,下流にすぐ脚の枝分かれがあるため,“common bundle”とも呼ばれます。

房室結節で減速したシグナルはヒス束で一気に加速し,正常ならば両脚へほぼ同時に届けられるため,幅の狭い(narrow)QRS波が形成されます。脚は左右二手に,左脚はさらに分かれて最終的にプルキンエ線維(網)を経て心室筋へと到達することになります。

ヒロ少年は小さい頃,母に「心臓は自分だけで動けるんだよ」と教えてもらい感動しました。「自動能」という表現になるかと思いますが,これはどの部位でも同じではなく,組織ごとに個々のペースが決まっています。この“自力”を固有心拍数と言います。

通常は,リズムに関する心臓のリーダーである洞結節のペースが一番速く,他の組織はそれに追従します。ただ,何らかの理由で急に下位に“お鉢”が回ってくることがあり,「完全房室ブロック」もその一因です。ですから,以前お伝えしたような,心臓の“七五三ルール”は絶対におさえておきましょう。これは,補充中枢を考える上でも重要な数値になってきます。

ここでいう「房室結節」は,より正確には「房室接合部」ですし,「心室」には,ヒス束,脚,脚枝,プルキンエ線維(網),心室筋までが含まれると考えて下さい。原則として上位ほどレートが早くなるため,(あくまでも)目安ですが,「ヒス束:40/分,脚(枝):30/分,心室筋:20/分」のような“10/分ごと”にイメージしておくのは悪くないと思っています。


*1 この組織を見つけたのは,ドイツ留学中だった田原淳(すなお)です。Tawara-Aschoff結節という“別名”とともに,医学史に名を残す日本人の大業績だと思います(詳細は成書参照)。

プレミアム会員向けコンテンツです(連載の第1~3回と最新回のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top