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インフルエンザ・COVID-19・RSV診療ガイド2025-26

臨床症状が類似する3疾患の知識を再整理!

最新刊

●主要な呼吸器ウイルス感染症をまとめて解説しました。コモンディジーズの知っておきたいトピックが1冊でわかります。
●コロナ禍においてあまりインフルエンザの診療経験が積めていなかった,という方にもおすすめです。
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●簡便・迅速・高感度・他項目同時測定などの各種検査,治療薬の使い分けの要点をまとめ読み!

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編著
菅谷 憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院 名誉参事,前 神奈川県警友会けいゆう病院 感染制御センター長)
判型B5判 ページ数240 刷色2色刷 版数第1版 発行日2025年10月19日 ISBN978-4-7849-5486-5 付録無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) 診療科
紙の書籍
税込4,400
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目次

chap. 1 インフルエンザ総論
 A.総論
 topics1 米国でのH1N1の最新情報
 B.鳥インフルエンザの最新状況

chap. 2 インフルエンザのウイルス学的知見

chap. 3 インフルエンザの予防・治療
A.成人,高齢者
B.小児
C.妊婦

chap. 4 インフルエンザワクチン
A.不活化インフルエンザワクチン
B.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン

chap. 5 インフルエンザ治療薬

chap. 6 COVID-19の予防・治療
A.成人,高齢者
B.小児
C.COVID-19ワクチン
topics2 日本のCOVID-19の超過死亡

chap. 7 RSウイルス感染症の予防・診断・治療
A.高齢者
B.小児

chap. 8 インフルエンザ・COVID-19の検査

chap. 9 インフルエンザ脳症,COVID-19やRSウイルス感染症に伴う急性脳症の診断・治療

chap. 10 呼吸器ウイルスの院内感染対策

chap. 11 呼吸器ウイルス感染症の学校での感染症対策

Q&A
Q1 血液腫瘍患者,HIV患者など免疫が低下している場合のワクチンの効果について
Q2 マスク・手洗い・うがい,種々の室内空気感染対策のインフルエンザやCOVID-19に対する予防効果について
Q3 成人:検査でインフルエンザ,COVID-19いずれも陽性になった場合(同時感染)の対応は?
Q4 小児:検査でインフルエンザ,COVID-19いずれも陽性になった場合(同時感染)の対応は?

序文


これからのインフルエンザ流行
▪欧米諸国も日本もインフルエンザ流行はいわば“正常化”
欧米では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)出現直後の2020-21シーズンはインフルエンザの流行はなかったが,翌2021-22シーズンには,A(H3N2)の小規模流行,2022-23シーズンには,A(H3N2)中心の大規模流行となった。2023-24シーズン以降は,12月に流行が始まり1〜2月にピークとなる,いわば“正常化”したインフルエンザ流行パターンに戻った。
日本も昨シーズン(2024-25シーズン)からインフルエンザ流行は“正常化”した。日本ではCOVID-19出現後,2020-21シーズン,2021-22シーズンと2シーズン連続してインフルエンザの流行はなかった。その後,2022-23シーズンはA(H3N2)による小規模流行,2023-24シーズンはA(H3N2),A(H1N1)pdm09,B型による大規模な混合流行となり,患者数は1,800万人以上に達し,流行期間も2023年9月~2024年5月までの9カ月間と長期にわたった。日本では2シーズンにわたり流行がなかったため,免疫が低下した影響と考えられた。
昨シーズンは,11月中旬からA(H1N1)pdm09の流行が始まり,12月中旬には早くも全国的に警報レベルに達した。しかし,2025年1月には患者数は大幅に減少した。推計受診者数は約1,037.5万人(2025年4月時点)となり,中規模のA(H1N1)pdm09主体の流行であった。

▪日本の2025-26シーズンはどうなるか
今後,日本ではCOVID-19出現前に戻り,A型が2026年1月頃まで流行し,2月からB型出現という“正常化”した流行パターンが予測されるが,7~9月の南半球のインフルエンザ流行を注視したい。そこで変異ウイルスが出現すると,日本の冬の流行の2025年12月頃~2026年3月頃に波及する。


2009年のA(H1N1)pdm09パンデミックと呼吸器ウイルス診療における“test and treat”
2009年のブタ由来インフルエンザ,swine-origin influenza A(H1N1)virus(S-OIV)パンデミックの際,日本ではインフルエンザが疑われた患者に迅速診断を実施し(test),陽性患者すべてをノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitor:NA阻害薬)で治療するよう推奨された(treat)。その結果,死亡数が世界で最も少なく,奇跡的に妊婦の死亡もなかった。日本の成功は最近になって国際的に高い評価を受け,世界の専門家の間では“test and treat”と称して,今後のパンデミックや呼吸器ウイルスの診療のめざすべき目標と考えられるようになってきた。一方,Our World in Dataによる日本のCOVID-19の累積超過死亡数では,2024年6月時点で約34万人に達し,2009年のS-OIVでの成功とは真逆の結果となっている。本項では,2009年のS-OIVパンデミックでの“test and treat”の成功を振り返ってみたい。

▪2009年パンデミック,日本での流行
2009年のインフルエンザパンデミックは,4月に米国カリフォルニアとメキシコから症例が報告されたのが始まりで,ウイルスは当初,ブタ由来インフルエンザ,S-OIVとされたが,現在は,季節性インフルエンザA(H1N1)pdm09となった。2009年6月にWHOはパンデミックを宣言し,筆者もWHOの対策会議に招集された。日本国内では,2009年5月に新型ウイルス感染例が報告され, 兵庫県や大阪府で検出が相次ぎ,全国に流行が拡大し, 真夏の8月に定点患者数が1.00に達した。12月には39.63(1週間に約39人受診)とピークになったが, その後減少に転じ,2010年3月には0.77となって流行は終息した。累積の推定受診患者数は2,100万人であった。

▪日本感染症学会の提言
日本感染症学会は2009年5月に,パンデミック対策について提言を発表し,その後,S-OIV発生に合わせて改訂したが1),詳細かつ画期的な内容であった。その骨子は,日本のすべての医療機関が新型インフルエンザ患者の診療にあたり,迅速診断が陽性になったすべてのインフルエンザ患者に,NA阻害薬による早期治療を推奨した点にある。
さらに,提言で「可能な限り抗インフルエンザ薬を早期から投与すべきである」と早期治療を強調した点も画期的であった。日本では,インフルエンザの早期治療は国民の常識となっているが,欧米では現在でもインフルエンザ患者の診察は発症後4~5日目の国が多い。
また,高齢者,小児などの,いわゆるハイリスク群の治療を優先することなく,すべての診断陽性例をNA阻害薬により治療することを打ち出したことも,高く評価される。2009年のパンデミックでは,高齢者よりも,健康な若年層が重症化したこと,また,低年齢児よりも学童が重症化したことが特徴であった。すべての診断陽性例治療という提言により,日本では,日頃は健康な若い世代と学童の重症化や死亡を抑えることができたが,この事実はあまり知られていない。
当時,一部のメディアでは「S-OIVは弱毒株であり,臨床的に軽症」と報道したが,そもそも弱毒株/強毒株という名称は,鳥インフルエンザH5,H7での分類であり,H1にはそのような分類はなく,また,S-OIVは決して軽症ではなかった。日本感染症学会の提言では,「S-OIVでも早期受診,早期診断,早期治療開始が重要であり,軽症であるとみなして受診が遅れるようなことのないように」と強調し,「受診制限などは行うべきではない」ことが明確に述べられた。
対照的にCOVID-19 対策では,2020 年2 月に政府は, 地域で患者数が大幅に増えた状況では,症状が軽い場合は自宅で療養を求める方針を発表した。国は,COVID-19を疑ったときの受診基準を,37.5℃以上の発熱が4日間以上続く場合などとしたが,これには医学的に根拠がなく,一種の受診制限となり,自宅で重症化した患者が増加した。日本において,政府主導の受診制限はあってはならないと筆者には感じられた。

▪日本ではA(H1N1)pdm09パンデミックによる死亡報告数が奇跡的に少なかった(表1)2)
日本では2009年のパンデミックで,S-OIVの患者数は2,100万人と報告されたが,死亡者はわずか198例にとどまった2)。日本の死亡率人口10万人当たり0.15人は,広範な流行が報告された国の中で最も低かった。英国では,同時期の死亡率は人口10万人当たり0.76人で日本の5.1倍,オーストラリアでは0.93人で日本の6.2倍であった。米国では,人口10万人当たりの死亡率は3.96人で,日本の26.4倍であった。日本国内でも,抗インフルエンザ薬の投与は必要でないとする意見が散見されていた状況で,日本感染症学会がすべての新型インフルエンザ患者を検査し,NA阻害薬による早期治療を強く推奨したことは,日本の2009年のS-OIVによるパンデミックの被害がきわめて少なかった成果につながった。これが最近,世界で“test and treat”と称賛されているのである。

▪パンデミックによる妊婦の死亡数とICU入院数
パンデミックの死亡者数を各国で比較するのは,死因の定義などの問題もあるが,妊婦の死亡数は確実に補足され信頼性は高い。
・日本は妊婦死亡ゼロ,ICU入院2例
日本では,2009年のパンデミックで妊婦の死亡例はなかった3)4)。4万〜5万人の妊婦が,A(H1N1)pdm09患者と接触後の感染予防としてNA阻害薬(主にオセルタミビル)を服用し,そのうちの40%,1万6,000~2万人が罹患した。これは,パンデミック時に罹患した妊婦,3万~4万人の約半数に当たる。2009年5月~2010年3月までに181例の妊婦が入院したが,ICUに収容されたのはわずか2例であった。
妊婦の死亡がなかった原因として, 多くの妊婦がA(H1N1)pdm09患者に接触した際にNA阻害薬を予防内服し,入院した妊婦の90%が発症後48時間以内にNA阻害薬で治療されたことが,最も重要と考えられる。
・オーストラリアとニュージーランドでは妊婦7例が死亡,ICU入院64例
オーストラリアとニュージーランドでは5),2009 年6~8 月までの3 カ月間に,A(H1N1)pdm09に罹患した妊婦64例がICUに入院し,うち7例(11%)が死亡した。また,64例中52例(81%)がNA阻害薬の投与を受けたが,発症から治療開始までの中央値は6日であった。
・米国では妊婦56例が死亡,ICU入院280例
米国では6),2009年4~12月末までに,A(H1N1)pdm09に罹患してICUに入院した妊婦は280例で,うち56例(20%)が死亡した。発症からNA阻害薬による治療開始までの中央値は,ICU患者では5日,死亡例では6日であった。

NA阻害薬による早期治療を徹底した日本と,NA阻害薬による治療開始が発症6日頃であったオーストラリア,ニュージーランドや米国との違いが,妊婦の死亡数の差になったと思われる。ICU入院数の差も歴然としている。日本産科婦人科学会がNA阻害薬による早期治療,ワクチンなどを推進したことは,多くの妊婦,新生児を救う歴史的な快挙であった。

▪2009年当時,日本はインフルエンザ診療が最も進んでいた
日本では2009年のパンデミック発生時には,早期診断,早期治療は確立していたが,日本以外の国では迅速診断キットは使われず,NA阻害薬による治療も普及していなかったのが実情であった7)8)。たとえば,英国ではNA阻害薬は認可されていたものの,パンデミック前は抗インフルエンザ薬の有効性に関する論争があった上,英国政府は費用対効果への懸念から,季節性インフルエンザでの使用を大幅に制限していた。2009年のパンデミック発生に伴い,英国政府はハイリスク患者のNA阻害薬による早期治療を勧奨したが,NA阻害薬治療に慣れていない多くの医師は処方せず,英国民にも治療の必要性が十分に理解されなかった。これは,NA阻害薬の有効性や効果を理解していない政府が主導した,英国のパンデミック対策の欠陥であった。

▪2009年パンデミック,米国の死亡者の平均年齢は37歳
2009年のパンデミックでは, 世界の超過死亡数は28万人以上と報告されているが9),日本であまり知られていないのは,若年者の死亡が増加した事実である。米国の調査では, 死亡の85%以上が60歳未満で発生し, 驚くべきことに平均年齢は37歳と,スペインかぜの27歳についで若かった10)。一方,季節性インフルエンザでは, 死亡の90%は65歳以上で発生し, 平均年齢は76歳とされる。2009年のパンデミックは,季節性インフルエンザとはまったく異なった様相を呈したのである。
2009年のパンデミックによる死亡者数は比較的少ないとはいえ,死亡者の平均年齢37歳を考慮して,早死により失われた生存年数(years of life lost:YLL)を計算すると,その影響はアジアかぜ(1957年)や香港かぜ(1968年)と同等と報告されている。
2009年のS-OIVの死亡例の平均年齢が低いのは,60歳以上の1/3が,若い頃に抗原性の近いウイルスに感染したことが原因と考えられた。しかし,S-OIVは,前年に流行していた季節性A(H1N1)ウイルス(ソ連かぜ)とは抗原性が大幅に異なり,季節性ワクチンは無効であった。2009年のパンデミック時,有効なワクチンはS-OIV発生から半年後の2009年11月まで入手できなかった。
2009年のパンデミックから得られた重要な教訓のひとつは,年齢から見たインフルエンザの重症化,死亡のハイリスクは,高齢者と低年齢の小児であることは常識であるが,これは季節性インフルエンザでの常識であり,パンデミックでは必ずしも通用しない点である。

▪2009年パンデミック,小児の入院患者は学童中心
日本における2009年のパンデミックの患者数は,2,100万人であり,日本の総人口の約16%に達した。そのうち,59%は15歳以下の小児であった。しかしながら,死亡は日本全国では38例で,例年と比べて増加はしなかった。対照的に世界各国では,小児のインフルエンザ死亡は例年と比べて数倍~10倍も増加した。慶應義塾大学小児科の25の関連病院で, 小児S-OIV入院患者1,000例を解析したところ,患者の25.3%でSpO2が90%以下に低下し11),日本の小児患者は軽症ではなかったことが報告された。NA阻害薬は1,000例中984例(98.4%)で使用されたが,主としてオセルタミビルであった。そのうち88.9%は発症48時間以内に投与された。1,000例中12例(1.2%)の入院患者が人工換気療法を受けたが,死亡はわずかに1例(0.1%)であった。結論として,重症例が多かったにもかかわらず致死率がきわめて低かったのは,早期のNA阻害薬による治療が徹底されたためと考えられた。
2009年当時,若年者の重症化は“age shift”という言葉で語られた。小児の入院は,季節性インフルエンザでは6歳以下, 特に2歳未満の低年齢小児に多いが,2009年のパンデミックでは学童が最も多かった。つまり,小児では入院患者の平均年齢が低年齢児から年長児に“age shift”したのである11)。慶應義塾大学小児科関連病院からの報告では,平均年齢は6.4±3.4歳であり,季節性インフルエンザでハイリスクと考えられる2歳未満の小児は7.1%しかいなかった。

▪迅速診断キットは日本には最適だが,欧米では有用性が低い
迅速診断キットは, 日本では1999年にDirectigen FluAが認可され, 国内で急速に普及した。このキットは,筆者が1997年にパンデミック対策の調査でベルギーのウイルス研究所を訪問した際に, 流行調査目的で使用されていたのを見て日本に持ち帰り,日本鋼管病院小児科で患者の診断目的で使用したところ,きわめて有用性が高いことがわかり,日本での治験実施,そして認可となった。日本ではその後,Directigen FluAが爆発的に普及した。
上気道のウイルス価の高い発症後48時間以内に,ほとんどのインフルエンザ患者が受診する日本では,最近の迅速診断キットは,成人のA型インフルエンザ患者で調査した報告でも,PCRに比べ感度97%,特異度89%と,きわめて高い性能があることがわかった12)。
対照的に欧米では,インフルエンザ発症から受診までに4日以上かかるため,上気道のウイルス量が減少し,迅速診断キットの感度は大幅に低下する。欧米での迅速診断キットの性能を検討した論文として引用されることの多いメタ解析13)では,インフルエンザAの感度はPCRと比較して54.4%,Bの感度は53.2%と低く,一方,特異度は98%以上と高いことが報告された。国内でも本論文が紹介され,迅速診断キットの感度は低いため検査をする意味がない,というような意見が散見されるが,それは誤りである。
日本での報告に比べ, 欧米では感度が大幅に低いが, メタ解析論文では,発症後,検体を採取したタイミングが記載されていないのが問題である。米国感染症学会
(IDSA)のガイドラインでは,「可能であれば発症後4日以内に上気道検体を採取する」としているため,メタ解析論文には,発症後4〜5日以降に迅速診断キットで検査した多数の検体が含まれていると考えられる。世界では現在でも,インフルエンザ患者が検査結果をもとに,早期に抗インフルエンザ薬で治療を受けている国はほとんどない。日本では抗インフルエンザ薬治療を受けている患者は,原則的に全例が診断陽性例であり,まさに“test and treat”である。


おわりに
2022年3月にWHOから,新たなインフルエンザ治療ガイドラインが発表された14)。筆者は本ガイドライン作成にも参画したが,ガイドラインで重要な点は,オセルタミビルの重症化防止効果と死亡防止効果が明確にされた点である。8編の観察研究(n=4,725)により,オセルタミビル治療患者では,インフルエンザ患者の死亡を62%減少させたことが明らかにされた(95%CI:0.19-0.75)。また,2編の観察研究(n=1万4,445)では,入院を35%減少させた(95%CI:0.48-0.87)14)。
2009年のA(H1N1)pdm09パンデミックに際し,日本では,迅速診断キットによる早期診断とオセルタミビルなどのNA阻害薬による早期治療体制が確立していたことが, 奇跡的な低死亡率につながった。この診療体制は, 国際的に“test and treat”と称されている。
日本国内では,日本の死亡者がきわめて少なかったため,2009年パンデミックは単に軽症だったと誤解され,若年者のリスクが高いパンデミックであったことが忘れ去られている面もあるが,実際には,インフルエンザ患者全員にNA阻害薬治療を実施した日本は,幸運にも30歳代,40歳代の若年層の重症化防止に成功し,妊婦の死亡をゼロにして,さらにSpO2が低下した小児重症患者の死亡も抑えたのである。これは,日本で確立した“test and treat”の奇跡的な成果である。
対照的に,日本のCOVID-19対策では,RT-PCR検査の感度が低いとか,検査を受けに行くと感染して流行が拡大するというような誤った情報が流布され,政府も検査の重要性,つまり“test”を強調しなかったため,COVID-19と診断されていない死亡例が多数あったと思われる。また政府は,医学的な根拠がないままに,受診の目安として,「発熱してから4日間は自宅で様子をみること」を勧奨したため,受診制限と受け取られ,COVID-19と診断されずに自宅や施設で死亡した例も多かったと思われる。実際,“treat”である抗ウイルス薬の使用が少なかったことも,多数の死亡につながったと筆者は考えている。日本国民の多くは,COVID-19の累計超過死亡者数がフランスやカナダを上回る34万人に達した(2024年6月時点)ことを知らないままに,COVID-19対策が成功したと思い込んでいるようである。
パンデミック対策が成功したかは,超過死亡数も詳細に検討して世界と比較し,それをもとに今回のCOVID-19対策の問題点を改めて検討し,これからのパンデミック,たとえば米国で表面化したH5N1などに備える必要がある。

図表,文献は省略

2025年9月  菅谷憲夫__