初版から39年。筋病理の定番書が全面改訂
臨床のための筋病理 第6版
目次
1 筋病理組織標本のつくり方
■ 筋生検
■ 検体処理
■ 切片の作製
■ 染色法
2 筋病理組織標本の読み方
■ 正常骨格筋の組織像
■ 各種組織化学染色の意義
■ 各種免疫染色の意義
■ 筋線維の壊死・再生
主な筋疾患の筋病理組織像
1 筋ジストロフィー
Ⅰ.Duchenne型筋ジストロフィー
Ⅱ.Becker型筋ジストロフィー
Ⅲ.先天性筋ジストロフィー
■ 福山型先天性筋ジストロフィー
■ Walker-Warburg症候群
■ 筋-眼-脳病
■ ラミニン-α2欠損型先天性筋ジストロフィー
■ Ullrich型先天性筋ジストロフィー
■ Bethlemミオパチー
■ Ⅻ型コラーゲン関連ミオパチー
■ LMNA関連先天性筋ジストロフィー
■ Marinesco-Sjögren症候群
■ 巨大ミトコンドリア性先天性筋ジストロフィー
Ⅳ.肢帯型筋ジストロフィー
[常染色体顕性遺伝をとる主な疾患]
■ ラミノパチー(LGMD1B)
■ カベオリノパチー(LGMD1C)
[常染色体潜性遺伝をとる主な疾患]
■ カルパイノパチー(LGMD2AまたはLGMDR1)
■ ジスフェルリノパチー(LGMD2BまたはLGMDR2)
■ アノクタミノパチー(LGMD2LまたはLGMDR12)
■ サルコグリカノパチー(LGMD2C-2FまたはLGMDR3-R6)
■ α-ジストログリカノパチー
■ 先天性全身性リポジストロフィーを伴う筋ジストロフィー
Ⅴ.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
Ⅵ.Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー
■ エメリノパチー
■ ラミノパチー
2 先天性ミオパチー
■ ネマリンミオパチー
■ ADSS1ミオパチー
■ 孤発性遅発性ネマリンミオパチー
■ セントラルコア病
■ 重症乳児型ミオチュブラーミオパチー
■ 中心核病
■ 先天性筋線維タイプ不均等症
■ 先天性全タイプ1線維ミオパチー
■ 特異な病理像を示さない先天性ミオパチー
3 縁取り空胞性ミオパチー・筋原線維性ミオパチー
Ⅰ.縁取り空胞性ミオパチー
■ GNEミオパチー
■ 前脛骨筋ジストロフィー
■ Welander型遠位型ミオパチー
■ VCPミオパチー
■ 眼咽頭遠位型ミオパチー
■ 眼咽頭筋ジストロフィー
■ Marinesco-Sjögren症候群
Ⅱ.筋原線維性ミオパチー
■ デスミノパチーおよび関連疾患
■ 早期呼吸障害を伴う遺伝性ミオパチー
■ 還元小体ミオパチー
4 自己貪食空胞性ミオパチー
Ⅰ.Danon病
Ⅱ.過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー
5 筋強直性疾患
■ 筋強直性ジストロフィー
■ 先天性筋強直性ジストロフィー
■ 先天性筋強直症
■ 先天性パラミオトニア
■ Schwartz-Jampel症候群
■ その他の異常筋収縮性疾患
6 周期性四肢麻痺と細管集合体ミオパチー
■ 周期性四肢麻痺
■ Andersen-Tawil症候群
■ Stormorken症候群関連疾患
■ 肢帯型先天性筋無力症候群
7 代謝性筋疾患
Ⅰ.糖原病
■ 筋型グリコーゲン合成酵素欠損,糖原病0型
■ Pompe病,酸性α-グルコシダーゼ欠損,糖原病Ⅱ型
■ Cori病,脱分枝酵素欠損症,糖原病Ⅲ型
■ Anderson病,分枝酵素欠損症,糖原病Ⅳ型
■ McArdle病,筋型ホスホリラーゼ欠損症,糖原病V型
■ 垂井病,ホスホフルクトキナーゼ欠損症,糖原病Ⅶ型
Ⅱ.脂質代謝異常
■ 原発性カルニチン欠損症
■ 複合アシルCoA脱水素酵素欠損症
■ 後天性MADD
■ ミオパチーを伴う中性脂肪蓄積症
■ その他
■ カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅡ欠損症・極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症・
ミトコンドリア三頭酵素欠損症
8 ミトコンドリア病
■ ミトコンドリアの形態,DNA,機能
■ ミトコンドリア病の分類
■ 赤色ぼろ線維の形態学的特徴
[ミトコンドリアDNAに変異をみる疾患]
■ 慢性進行性外眼筋麻痺症候群
■ Pearson症候群
■ 赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(福原病)
■ 高乳酸血症,卒中様症状を伴うミトコンドリア病
■ チトクロームc酸化酵素欠損良性乳児型
■ Leber病;Leber遺伝性視神経萎縮
■ neuropathy,ataxia,and retinitis pigmentosa
■ Leigh脳症
[核DNAに変異をみる疾患]
■ 慢性進行性外眼筋麻痺
■ mitochondrial neurogastrointestinal encephalomyopathy
■ チトクロームc酸化酵素assembly蛋白の異常─ 心筋症を伴う重症乳児型チトクロームc酸化酵素欠損
■ ミトコンドリアDNA枯渇症
[その他のミトコンドリア病]
■ 複合体Ⅰ欠損
■ チトクロームc酸化酵素欠損重症乳児型
■ Leigh脳症
9 筋炎
Ⅰ.自己免疫性筋炎
■ 皮膚筋炎
■ 抗合成酵素症候群
■ 免疫介在性壊死性ミオパチー
■ 抗ミトコンドリアM2抗体陽性筋炎
■ 抗Ku抗体陽性筋炎
■ 封入体筋炎
■ オーバーラップ症候群
Ⅱ.その他の自己免疫性疾患
■ 肉芽腫性ミオパチー
■ 好酸球性筋炎
■ 血管炎に伴うもの
■ 免疫チェックポイント阻害薬関連筋炎
Ⅲ.感染性筋炎
■ ウイルス性筋炎
■ 細菌性筋炎
■ 寄生虫性筋炎
■ その他
10 全身性疾患に伴う筋疾患
■ 内分泌疾患
■ アミロイドーシス
■ ビタミン欠乏症
■ 中枢神経系変性疾患
■ 加齢性変化
■ その他
11 薬剤性・中毒性ミオパチー
Ⅰ.薬剤性ミオパチー
■ ステロイドミオパチー
■ スタチンミオパチー
■ 免疫チェックポイント阻害薬関連筋炎
■ セルトラリン関連ミオパチー
■ コルヒチンミオパチー
■ クロロキンミオパチー
■ 悪性高熱症
■ 悪性症候群
■ 局所麻酔薬
Ⅱ.中毒性ミオパチー
■ アルコール性ミオパチー
■ ゲルマニウム中毒
■ トルエン中毒
12 神経原性疾患
Ⅰ.神経原性筋萎縮症
Ⅱ.脊髄性筋萎縮症
■ 乳児脊髄性筋萎縮症(SMA1,W-H病)
■ 小児脊髄性筋萎縮症(SMA2,intermediate form)
■ 若年型脊髄性筋萎縮症(SMA3,K-W病)
■ X連鎖性球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)
Ⅲ.筋萎縮性側索硬化症
Ⅳ.若年性一側性筋萎縮症(平山病)
Ⅴ.先天性髄鞘形成不全ニューロパチー
Ⅵ.その他
13 整形外科領域の筋疾患
■ 脊椎強直症候群
■ Escobar症候群
■ 先天性多発性関節拘縮症
■ 一側肢萎縮
序文
時の経つのは早いとよく言いますが,この筋病理の本を手掛けても実感しました。本書の初版が出たのが1987年5月ですから,もう40年近く経たことになります。私のなまけぐせでしょう。1冊の改定に10年以上かけたのです。言い訳になりいますが,この間著しい学問の進歩がなかったこともあります。
最近数年素晴らしい学問の進歩が見られるようになりました。それは神経筋疾患にもあてはまります。筋疾患の中で比較的頻度が高い肢帯型筋ジストロフィーという病気があります。症状はいろいろですが,多くの患者では比較的軽度の筋力低下を示し,心肺機能はあまり侵されてないとされています。この病気の遺伝子が次々と明らかにされ,なんと20種以上変異が報告されています。遺伝子座は筋線維膜や核膜蛋白など種々にわたっています。肢帯型の研究はしばらくはホットスポットとなるでしょう(最近の詳しい研究結果は「Ⅳ肢帯型筋ジストロフィー(p89)」参照)。治療面でも素晴らしい成果があげられています。代表的なのは糖原病Ⅱ型(Pompe病)です。酵素補充療法が有効で,早期に治療を開始すれば歩行例もあるとのことです。私の患者さんも15歳から治療を開始し,それ以降の進行をみていません。酵素補充療法が有効なのです。脊髄性筋萎縮症(Werdnig Hoffmann病)でも早期に治療(遺伝子治療)を開始すれば進行を抑制できるようになっています。世の中は明るい情報で埋もれつつあります。本書では炎症性筋疾患についても西野一三先生によって詳しく記載されています。筋炎についてもぜひ治療法を確立して頂きたいと願っています。
私は既に87歳になっています。私が筋病理の研究に携わることはもうないでしょう。でも私には西野一三先生のような超優秀な後輩がいます。近い将来多くの筋疾患の治療に成功してくださるに違いありません。私はこれで喜んで引退します。いままで研究を補助してくださった研究員の皆様,臨床のための筋病理を編集してくださった初代の阿部尚子さま,今回の編集をしてくださった村上由佳さまに深謝します。
2026年2月 埜中征哉
近年の遺伝子解析技術の進歩により,筋生検や筋病理診断を行わなくとも診断可能な遺伝性筋疾患が増えてきている。特に全エクソーム解析や全ゲノム解析などの大規模遺伝子解析が実臨床で利用可能な欧米では,「遺伝子ファースト」の時代になったと言われ,筋生検はもはや不要ではないかとの意見もみられる。また筋炎についても,近年,特異的な自己抗体が同定されつつあり,自己抗体が検出できれば筋生検は不要ではないかという見方がある。はたしてそうだろうか?
これまで筋病理は,筋疾患を評価する上で,おそらく最も重要かつ最先端の診断ツールであった。その結果,多くの筋疾患は,程度の差こそあれ,病理学的所見によって定義されてきた。セントラルコア病やネマリンミオパチーなどの先天性ミオパチーは,その代表例である。したがって,大規模遺伝子解析が可能となった現在においても,従来の疾患概念と遺伝学的所見との摺り合わせは不可欠である。いわゆるgenotype-phenotype correlationが十分に確立するまでは,従来の筋病理診断が必要である。
さらに,大規模遺伝子解析では,病的意義が不明のバリアントが多数検出されることが少なくない。加えて,同一遺伝子であっても複数の異なる病態をきたすphenotypic variabilityが存在し,遺伝学的解析のみで診断に到達することが容易ではない場合も多い。実際,全エクソーム解析などを行っても診断に至る確率は25〜40%程度と,必ずしも高くない。
一方で,筋病理診断が長らく筋疾患診断のゴールドスタンダードであったがゆえに,「とりあえず上腕二頭筋や大腿四頭筋から筋生検を行えばよい」といった安直な理解が広がっていた時期もある。これは大いに反省すべきである。そもそも筋生検で評価できる範囲はきわめて限局しており,局所の筋病変を見ているにすぎない。
一方,近年その重要性が強調されるようになった骨格筋画像研究の進展により,ほとんどの遺伝性筋疾患が筋選択性の脂肪置換を示すことが明らかになっている。したがって,採取部位によって筋病理所見が大きく変わり得ることは明白である。したがって,単に筋生検を行うだけでなく,全身の骨格筋画像を撮像して罹患筋分布を評価し,局所の筋病理所見と対比させながら総合的に判断することがきわめて重要である。
もちろん,遺伝学的診断や自己抗体測定も不可欠であるが,それだけで十分というわけではない。筋疾患のような希少疾患の診療においては,一例一例が貴重であることも忘れてはならない。筋疾患の診断は,これらの検査を相補的に組み合わせ,統合的に行う時代に入っている。
このような背景をふまえ,本書では第5版に引き続き,可能な限り代表的な骨格筋画像を提示するよう努めた。画像データの使用をご許可くださった患者さんならびに主治医の先生方に,この場を借りて深く御礼申し上げる。
最後に,日頃より標本作製を担ってくれている染色チーム,主治医の先生方との連絡調整や検体情報の登録・管理を行ってくれている検体受付チーム,遺伝学的診断を担当している遺伝子解析チーム,そして標本をともに読み議論してくれている若手研究員各位に,心より感謝を申し上げたい。さらに,大幅に締切に遅れたにもかかわらず快く編集を進めてくださった,日本医事新報社の村上由佳様にも深く御礼申し上げる。
2026年2月 西野一三
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
・p141本文
〈誤〉電子顕微鏡でみると,次に述べる眼咽頭筋ジストロフィーと同じ核内封入体を認める。 →〈正〉電子顕微鏡でみると,次に述べる眼咽頭筋ジストロフィーと似た核内封入体を認めるが,直径は17nm程度と眼咽頭筋ジストロフィーよりも太い。
・p142図15キャプション
〈誤〉核の中に細い小管状フィラメント様封入体を見る(B)。同じ形態の核内封入体は眼咽頭遠位型ミオパチーでも認められる →〈正〉核の中に直径8.5nmの細い小管状フィラメント様封入体を見る(B)