がん診療に携わる人のための
静がん感染症治療戦略
静がん感染症内科に蓄積されたノウハウが待望の書籍化!
目次
序文
2016年7月 伊東直哉/倉井華子
レビュー
藤本卓司(田附興風会医学研究所北野病院総合診療センター長)
【書評】より良いエビデンス、より新しい知見を、自力で探してゆく姿勢の大切さを教えてくれる良書
日常よく遭遇する感染症であっても、診断と治療に関するエビデンスが乏しい場合は少なくない。研修医からの素朴な質問に対して、テキストに記載されている一般的な内容や過去の症例を引き合いに出すだけで、その場の議論が終わってしまうこともある。 このたび出版された「静がん感染症治療戦略」は、静岡がんセンター感染症内科の日々のカンファレンスで挙がった具体的な疑問点を、エビデンスに基づいて掘り下げた症例集である。序文によると、実際の症例で挙がった疑問点について、担当医ができる限り情報収集した上で、そのエッセンスを「日報」の形で科内メーリングリストにより全体化し、蓄積したものであるという。読み進んでゆくと、その活き活きとした流れを実感でき、まるで同センターのカンファレンスに参加しているような臨場感がある。また、本書で展開されるディスカッションは、感染症のテキストやUpToDateの記述をまとめて紹介するような内容ではなく、問題の解決につながる新しい臨床研究の論文、古くても重要な論文などが、具体的かつわかりやすく紹介されている。自身や診療科の経験に頼るのではなく、少しでも良いエビデンスを探そうとする主治医グループの意気込みが伝わってくる。末尾に、根拠となった論文が日本語の小見出し付きで項目別に掲載してあるのも、読者への心配りを感じる。 全22症例のうち、多くが非がん患者でもみられるコモンな感染症であり、がん患者、非がん患者の感染症診療のいずれにも共通する普遍的記述に富んでいる点も本書の特徴である。金科玉条のごとくガイドラインの記述に従うのではなく、より良いエビデンス、より新しい知見を、自力で探してゆく姿勢の大切さを教えてくれるという意味においても、模範となる良書である。
大曲貴夫〔国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長/国際診療部長(併任)〕
推薦のことば
がん患者の感染症診療に通じるロジックは,一般的な感染症診療とまったく同じである。一方でがん患者の背景は原疾患の影響,治療の影響,そして加齢や併存する非腫瘍性疾患の影響もあって複雑であり,その結果,発生する感染症も一般感染症とはやや違なる様相を呈することが多い。 この問題を解きほぐすには,患者の背景を把握して感染症の発生する理由を丹念に読み解きつつ,一般的な感染症診療の経験・知見をふまえながら,がん患者における感染症ならではの特殊性をよく把握して診療を進める必要がある。とはいえ,過去の知見が必ずしも多くない分野である。この過程では必ず臨床上の問いが出てくる。これをいかに調べ,同時にいかに過去の自らの経験をふまえて対応していくかが重要になる。 この過程で得た知識や経験は,放っておけば個々の医師の記憶の中に消え去っていってしまう。これは,対応する組織としてはきわめてもったいないことである。厳しく言えば,組織の財産として生かされないという点では,大いなる無駄になっているとも言える。組織,この場合は感染症内科が組織として経験・知見を積み重ねて力をつけ,さらに高い診療能力を発揮するには,このような個人の経験を一回性のこととして埋もれさせることなく積み上げていく必要がある。その蓄積は次に来る医師にとって有用であり,その結果,患者に貢献できるはずである。 そのような思いがあったため,静岡がんセンター感染症内科では得た知見を日報という形で内輪で報告して共有してきた。開始したのが2005年であるから既に膨大な数になっている。これを,現在静岡がんセンターにおいて現役で頑張っている方々を中心に,OG・OBの力を借りてまとめたのが本書である。常に事例に始まり,事例の文脈に寄り添いつつ論を展開する本書の構成を見ると,静岡がんセンター感染症内科で培われた文化がよく表現されていると感じる。各項の整序された記載に現役の医師達の苦労がみてとれるとともに,コラムではOBが自身の対応の経験からの学びを瑞々しくしたためており,この分野の奥の深さ,展開性の広さを感じることができる。 がん診療の領域で本書がその質の向上に貢献することを願ってやまない。