造血器腫瘍アトラス〈第5版〉
形態、免疫、染色体から分子細胞治療へ
目次
第2章 造血幹細胞の生物学
第3章 分子遺伝学の手技と遺伝子異常の解析
第4章 造血器腫瘍の発症機構
第5章 急性骨髄性白血病の診断・治療・予後因子
第6章 骨髄異形成症候群の診断・治療・予後因子
第7章 骨髄増殖性腫瘍,骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍の診断・治療・予後因子
第8章 リンパ系腫瘍の診断と治療・予後因子
第9章 小児白血病と乳児白血病
第10章 組織球性腫瘍と血球貪食症候群
第11章 分子標的治療薬 作用と抵抗性獲得のメカニズム
第12章 造血幹細胞移植,免疫療法
序文
序 文 第5版
「造血器腫瘍アトラス」(第1版)は,阿部達生京都府立医科大学名誉教授の編著によって1988年に出版された。メイ・ギムザ染色による芽球の細胞形態を基本としたFAB分類に,免疫学的形質と染色体所見を組み込んだ白血病の診断と分類を意図したものであった。今日,形態,免疫,染色体,遺伝子に重点をおいたWHO分類が血液腫瘍の診療に大きく貢献している状況をみれば,本書の第1版が先見性のある図書であったことを改めて認識することができる。
小冊子として出版された第1版は,版を重ねるごとに内容が豊富になり,頁数を増してきた。分子細胞遺伝学,造血幹細胞とサイトカインによる造血調節,分子標的治療薬の開発など進歩する領域の新知見を,阿部名誉教授が改訂のたびにいち早く取り入れられたためである。
第3版からは,図譜という枠組みから離れ挑戦的な内容になった。対象となる読者を,血液学を志す学生,大学院生,臨床医,研究者,技術者と拡大したためである。その方向性は第4版へと受け継がれ,そこから7年,初版からは約30年を経過して出版される改訂第5版は,図表を駆使した造血器腫瘍学の成書として,進化した「造血器腫瘍アトラス」となった感がある。わが国における血液学の診療と研究を牽引する先生方に多数ご参画を頂いた賜物である。
近年の血液学の進歩は著しく,ゲノム研究では次世代シーケンサーによって発見される数々の遺伝子変異,免疫療法の分野では免疫チェックポイント阻害薬と遺伝子改変T細胞療法の開発など,医学の進歩はとどまるところを知らない。
今回の改訂にあたっては,21世紀にはいってますます進歩する血液学の臨床と基礎を網羅する一方で,図表を駆使して理解を容易にすることを心がけた。その内容は,形態(morphology),免疫(immunology),染色体(cytogenetics)に力点をおく基本理念を継承しながら,ゲノム・エピゲノム医学,分子標的療法,造血幹細胞移植,免疫細胞療法などにおける最新の知見を盛り込んだものとなっている。また,WHO分類2016年版の公表がせまる中,わが国を代表して改訂に参加された研究者から情報を頂き,該当部分をご担当の先生方には急遽修正のお手間をお願い申し上げた。臨床,教育,研究に多忙を極められるなか,ご快諾を頂きすばらしい内容として頂いた。
血液学に関わるあらゆる分野の読者に活用して頂ければ幸いである。
恩師阿部達生名誉教授のご指導により,本書を改訂することができた。
2016年7月
谷脇雅史,横田昇平,黒田純也
レビュー
上田龍三 愛知医科大学医学部腫瘍免疫寄附講座教授
【書評】各分野の第一人者による解説と丁寧な図解により初心者でも容易に理解できる
造血器腫瘍の研究は、試料の確保が比較的簡単で、反復して採取できることもあり、がん研究の最先端の知見を得られることが多い。そのため、白血病などの難治がんにおける発がん機序の解明や診断・治療への開発研究をめざし、血液学を志望する若い研究者も少なくない。 本アトラスの初版は1988年であるが、生みの親である阿部達生京都府立医科大学名誉教授により、当時の白血病の形態分類であったFAB分類のみならず、教室がいち早く導入した染色体解析所見、がん遺伝子の活性化や免疫学的分類を加味したMIC分類までも念頭に置いたアトラスとして出版され、その斬新さが大いに注目された。以後も、がん生物学やトランスレーショナル・リサーチでの大きな学問進歩時に、タイミングよく改訂を重ねてきている。 今回は第5版として、阿部血液腫瘍学の後継者である谷脇雅史名誉教授を中心に大改訂がなされた。副題も「形態、免疫、染色体から分子細胞治療へ」と変更され、形態学の基本から始まり、造血幹細胞の生物学、分子遺伝学の手技から遺伝子解析、造血器腫瘍の発生機序、各種白血病・リンパ腫の診断と治療・予後、分子標的薬の作用機序と薬剤耐性、造血幹細胞移植、さらにはがん免疫療法に至るまでの内容を含み、各分野の第一人者によるオールジャパンの体制で刊行された。全章にわたって丁寧な図解が導入されており、初心者でも最先端の知識を容易に理解できる。また、教科書として興味を持てるように書かれているため、血液学を志向する者は最近流行りの手軽なハンドブックに満足せず、記載内容の科学的な補完をするものとして本書を精読し、実臨床の現場で広く活用して頂きたい。そのことこそが正しい知識の整理となり、何よりも患者さんのためになるだろう。
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
このたびは『造血器腫瘍アトラス第5版』をご購入いただきまして誠にありがとうございました。
本書に下記の誤り・変更がございますので,訂正するとともに,謹んでお詫び申し上げます。
| 頁 | 誤 | 正 |
| 14頁 図51 図タイトル・ 解説 |
図51 破骨細胞(osteoclast) 前立腺癌の骨髄転移症例の骨髄で認められた。骨髄癌腫症で,骨の新生や破壊があるときに出現するとされる。周囲の赤血球と比較すると明らかなように,途方もなく大きな多核細胞である。細胞質は微細顆粒状を呈して周辺不明瞭である |
図51 多分葉核を示す巨核球(megakaryocyte) 正常骨髄にみられる多核の大型細胞には巨核球と破骨細胞(osteoclast)が含まれる。前者は核同士が核糸でつながる多分葉核で,図16のように細胞質に血小板を認めることも多い。これに対し破骨細胞では孤立した多核を呈し,不鮮明な細胞質内には粗大顆粒がみられる |