症例から学ぶ循環器EBM
臨床医のための必修トライアル15
大規模臨床試験の“鵜呑みにしない”読み方を伝授
目次
【EBMを理解するための基礎知識】
1.なぜEBMが必要なのか?
2.エビデンスの質と信頼性
3.無作為ランダム化二重盲検試験の正しい見方と読み方
4.メタアナリシスとは?
5.相対リスク、絶対リスクとNNT
6.バイアスについて
7.真のエンドポイントとサロゲート(代理)エンドポイント
8.intention to treat解析
9.オッズ比、ハザード比とコックス比例ハザードモデル
10.海外のエビデンスは日本人に適用できるか?
11.EBMと医師の技量・患者の特性
12.エビデンスも覆る!?―批判的に吟味する
13.商業主義とEBM
【症例カンファランスから学ぶ必修トライアル】
CASE 1 脳卒中後の血圧管理はどうあるべきか?
CASE 2 心房細動患者で脳塞栓症を予防する最適治療の選択
CASE 3 コレステロールを下げることで心筋梗塞は予防できるのか?
CASE 4 糖尿病性腎症を合併した高血圧症例における降圧薬治療
CASE 5 心筋梗塞後、高度に心機能が低下した症例に対する治療法
CASE 6 心筋梗塞後の降圧はどうあるべきか?
CASE 7 心機能低下例にβ-遮断薬を使うことのエビデンス
CASE 8 合併症のない高齢者高血圧に対する治療
CASE 9 ハイリスク高血圧患者の降圧薬治療について
CASE 10 ハイリスク症例におけるアスピリン治療のエビデンス
CASE 11 ハイリスクの高血圧例にはカルシウム(Ca)拮抗薬か、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)か?
CASE 12 高血圧を合併した心不全にはACE阻害薬かARBか?
CASE 13 狭心症患者のコレステロール値はどこまで下げるべきか?
CASE 14 日本人の高コレステロール血症に対するスタチン薬治療の有用性は?
CASE 15 多枝冠動脈病変に対してはバイパス手術かPCIか?
序文
しかし、ここ20年の間に新しいタイプの優れた高血圧治療薬、高脂血症治療薬、糖尿病治療薬などが相次いで登場したことで、疫学研究で示されていた血圧レベル、コレステロールレベルへの到達が比較的容易になり、疫学研究の成果を確認することができるようになった。
EBM(evidence based medicine)とは、文字通り、科学的な根拠に基づいた医療ということであるが、科学的根拠の根幹となるのは大規模臨床試験である。大規模臨床試験の成果によって変換を遂げた治療は枚挙にいとまがなく、それまでの治療学を大きく変えたことは、長らく臨床の場に身を置いている者として切実に感じている。
たとえば、長い間「高めでよい」とされていた高齢者の高血圧が、今では「厳格に治療」というように大きく変わったし、また心不全に禁忌とされていたβ-遮断薬が突如、心不全に不可欠の治療薬であるというように変換した。
臨床家は常に、相次いで発表される大規模臨床試験情報を追跡し、その結果をあくまでも画一的な集団での結果として捉え、かつ批判的に吟味しながら、実際の目の前の患者さんの臨床背景を考慮しながら治療学に応用する必要がある。
本書はこれまでのエポックメーキングとなった循環器疾患の治療学に関する大規模臨床試験の中で、臨床医、若手スタッフ、研修医がぜひ覚えておかなければならない必修トライアルを15試験厳選し、臨床試験の結果をどのように応用していくかについて、実際の症例検討会の中で学んでいこうというものである。
_x0080_本書が臨床の現場で根拠に基づく医療を実践する上で、少しでもお役に立てば望外の喜びである。
2007年2月
桑島 巌
レビュー
野出 孝一/佐賀大学循環器内科教授
【書評】EBMを現場の診療に応用するための最適の書
本書の内容の多くは、以前、日本医事新報社の月刊誌「junior」に掲載されていたものだが、わたしはこの連載を毎回楽しみにしていた。 循環器疾患の治療のプライマリーエンドポイントは、死亡率やイベント発症の抑制である。EBM、すなわち大規模臨床試験のエビデンスは、画一的集団の結果であり、その成果を日常診療に生かそうとすると、医師の相応の知識と力量が必要である。そこには、患者の人種、合併症、家族歴、社会的背景を踏まえた全人的医療が期待される。 EBMの分厚い解説書は数多く出版されているが、やや無味乾燥なものが多い。本書は、指導医と研修医とのやりとりを中心に平易に書かれており、読み進めていくと、実際にカンファレンスの中にいるような臨場感がある。 前半は、EBMを理解するための基礎知識として、臨床試験の具体的な方法や解析の手技の解説、特にバイアスやEBMに対する批判的な吟味についても書かれており、執筆者である桑島氏が強調する公平さの重要性について重点が置かれている。 桑島氏が本文中に述べている「エビデンスというサイエンスと経験や技量のアートの融合こそが重要である」という言葉には、臨床研究に関わる者としても、強く共感する。 後半は、診療の現場で遭遇することの多い降圧療法、脂質低下療法について、症例提示の形で進められ、薬物療法に加えて食事療法等、生活指導の内容まで含んでいるのが具体的でありがたい。さまざまな薬物療法のエビデンスの広告が氾濫する中で、実地医療の先生方がこの書を読めば、EBMに根ざした治療に対する考えが変わるのではないかと思う。 臨床研修制度が変わり、若い医師が手技の習熟に重きを置き、論文や原著を読まなくなった傾向があるが、本書は若手の医師に加えて、その指導者層に、ぜひ読んでいただきたい一冊である。
桑島 巌/東京都老人医療センター副院長
自著紹介
Evidence Based Medicineとは文字通り科学的な根拠に基づいた医療ということであるが、根幹となるのは大規模臨床試験である。その成果により変換を遂げた治療は枚挙にいとまがなく、それまでの治療学を大きく変えたことは、長らく臨床の場に身を置いている者として切実に感じている。臨床家は、相次いで発表される大規模臨床試験情報を常に追跡し、その結果をあくまでも画一的な集団での結果として捉え、かつ批判的に吟味しながら、実際の患者さんの臨床背景を考慮しながら治療学に応用する必要がある。 本書はこれまでのエポックメーキングとなった循環器疾患に関する大規模臨床試験の中で、若手臨床医、研修医がぜひ覚えておきたいものを厳選し、臨床試験の結果をどのように応用していくかについて、実際の症例検討会の中で学んでいこうというものである。 本書が臨床の現場で、科学的根拠に基づく医療を実践する上で、お役に立てば望外の喜びである。