小児の腸内細菌叢UP-TO-DATE
~基礎研究と臨床の知見~
人生最初の1000日間の栄養環境が生涯にわたる健康維持の鍵
目次
1章 総 論 小児の腸内細菌叢に関する最新の知見
1-1 腸内細菌叢研究の歴史
1-2 腸内細菌叢の解析法の進歩
1-3 腸内細菌叢がヒトの健康に果たす役割
1-4 小児期の腸内細菌叢の形成とその特徴
1-5 ヒトの腸内細菌叢の加齢に伴う変化
1-6 腸内細菌叢の乱れと小児の疾患
1-7 プロバイオティクスやプレバイオティクスによる腸内細菌叢の乱れに対する介入
1-8 健全な腸内細菌叢形成に望ましい食生活
2章 各 論 小児の腸内細菌叢の乱れと様々な疾患との関連
2-1 小児のアレルギー疾患
2-2 新生児壊死性腸炎
2-3 川崎病
2-4 小児への抗菌薬投与
2-5 小児の腎疾患
2-6 小児の炎症性腸疾患
2-7 小児の神経発達症
2-8 小児のてんかん
2-9 小児肥満
2-10 小児の尿路感染症
3章 付 録 臨床に役立つ腸内細菌叢に関する情報
3-1 ヒトの腸内細菌叢を構成する細菌の分類
3-2 プレバイオティクス ─ その種類と分類 ─
3-3 わが国で処方可能な医療用プロバイオティクス
3-4 主な短鎖脂肪酸産生菌
索 引
序文
序 文
ヒトの常在細菌の90%以上を占める消化管の細菌集団は腸内細菌叢と呼ばれ,腸内で一定のバランスを保ちながら共生しています。近年,その存在と役割が明らかになるにつれ,重要な研究テーマとして注目を集めています。
腸内細菌叢の構成比率や菌量に異常が生じることをdysbiosis(ディスバイオーシス)と呼びますが,出生から2歳ごろまでに生じたディスバイオーシスは成人期まで移行します。逆説的に言えば,この時期の腸内細菌叢を正常に保つことが小児期以降の長期的な健康維持において重要であるということです。実際,米国小児科学会は最近,「人生最初の1,000日間(受胎から分娩までの280日間と出生後2歳までの約720日を合わせた日数)の栄養環境が神経系の発達や生涯にわたる健康維持の鍵である」という考え方(Nutrition in the First 1,000 days)を提唱しています。
これまで腸内細菌叢に関する書籍として,小児期のディスバイオーシスの病因論的意義を論じたものはほとんど見あたりません。しかし最近,新生児・乳幼児のディスバイオーシスによる研究成果から免疫,代謝,神経疾患などの病態への理解が進んでいます。そこで小児の腸内細菌叢研究の現状と展望についてまとめたいと考え本書を企画しました。
本書の構成は,ヒトの一生における腸内細菌叢の経年変化やディスバイオーシスと健康との関連を横軸に,小児期のディスバイオーシスがまねく具体的な健康障害を縦軸にしています。具体的には第1章で腸内細菌研究歴史や最新の知見を解説し,第2章でディスバイオーシスと小児の様々な疾患との関連を紹介し,第3章では各章を理解する際に知っておくと便利な情報を付録的に掲載しました。そして各項目の執筆は最先端の研究者にお願いしました。その結果,小児を含むヒトの腸内細菌叢研究における最新の知見を漏らさず盛り込むことができたものと自負しています。また限られた紙面の中で素晴らしい原稿を執筆下さいました執筆者の方々には,この場を借りて厚く御礼申し上げます。
本書は,専門家でない方も含めて多くの方にお読み頂きたいと考え,執筆者には可能な限り平易な用語とわかりやすい表現を心がけて頂きました。結果的に大変読みやすい内容になったものと思いますが,何かお気づきの点がありましたら忌憚のないご意見をうかがえれば幸いです。
最後に,本書の企画段階から上梓に至るまで,1年あまりの長きにわたってご助言,ご支援を賜りました日本医事新報社の横尾直享氏に深謝の意を表します。
令和6年初夏
関西医科大学小児科学講座
編著 金子一成
レビュー
西﨑直人 (順天堂大学医学部附属浦安病院小児科先任准教授)
すべての小児科医・新生児科医・医療関係者に待望の一冊! まさに旬の必読の一冊!
近年の腸内細菌叢解析の発展には、目覚ましいものがある。腸内細菌叢の攪乱(dysbiosis)は種々の全身性疾患の病態と強く関連していることがわかり、成人領域では腸内細菌叢の改善をターゲットとした治療法も確立しつつある。しかし、小児科領域における腸内細菌叢と疾患関連性や攪乱した細菌叢の是正を介した治療効果については、まだ多くはわかっていない。 わが国の小児の腸内細菌叢研究のトップランナーであり、本書の編著者・金子一成先生が序文で述べているように、小児の腸内細菌叢とその攪乱は、アレルギー・免疫疾患、代謝疾患、神経疾患、炎症性腸疾患、腎疾患、神経発達症(発達障害)、肥満などとの関連が示唆されている。腸内細菌叢を理解することは、これら疾患の病態解明や治療にも繋がる可能性がある。さらには、小児科ではいまだ原因不明とされている川崎病の患者においても、腸内細菌叢の質的・量的なdysbiosisの関与が判明しつつあることは大変興味深い。加えて小児の腸内細菌叢の形成には、主に生後1000日間の栄養(nutrition in the first 1000 days)が重要とされているため、出生直後から診療にあたる新生児科医にとっても、本書の内容は熟知するに値する。 本書は、腸内細菌叢の研究者はもちろん、小児科・新生児科の医師、小児と接する看護師はもとより、子ども達の青年期以降の健康を管理する内科医を含むすべての医療従事者にとって、役立つものと確信している。最先端の小児の腸内細菌叢研究の紹介、臨床応用の可能性、今後の研究の展望が明快かつコンパクトにまとまっているほか、各章に必読の関連論文の紹介も豊富に収められている、まさに珠玉の一冊である。 最後に繰り返しになるが、本書は小児の腸内細菌叢について、今知っておくべきすべての最新情報が網羅された、わが国初の良書である。万全の自信をもってお勧めする。