総合診療の視点で診る不定愁訴【電子版付】
患者中心の医療の方法
長期的で包括的なwell-beingのために
目次
第1章 診断と治療
1 はじめに─MUS患者の診療─
2 MUSと器質的疾患
3 MUSと精神疾患
4 MUSと女性特有の問題
5 MUSと漢方治療
第2章 マネジメント
1 診療スタイル
1) 器質的疾患とも精神的疾患とも言えないとき
2) 患者が納得する説明
3) 医師自身の陰性感情への対応
2 個別のアプローチ
1) 倦怠感
2) めまい・ふらつき
3) 胃腸症状
4) 頭痛
5) 動悸・息切れ
3 Special Issue
1) 苦悩を見出し癒しにつなげる
2) 複雑困難事例の落とし所
3) 真の受診理由
第3章 クリニカルシナリオ
症例1 器質的疾患が隠れている事例
症例2 精神的疾患に分類される事例
症例3 病への対応で症状が安定した事例
症例4 家族を含めたアプローチで安定した事例
症例5 継続性を梃子に苦悩から癒しに導いた事例
序文
いつの頃からだろう。 患者には不調の原因たる疾患(disease)が存在し,医師の役割はその 原因を突き止め,原因に応じた治療をすることである,と考えられるよ うになったのは。
いつの頃からだろう。 検査で異常がなければ,医師がやるべきことはもうそこにはない,と 考えられるようになったのは。
誰か教えてくれただろうか。 医師の役割とは,一体何なのかということを。
本書はこうした意識に基づいて記された,家庭医によるプライマリ・ ケア医のための書籍である。本書の主眼は「医学的な診断がつこうがつ くまいが,医師が患者に提供すべきケア」にある。医師の科学者的側面 だけではなく,「人を癒す」という側面に改めて光を当てることを目指し て編集した。
本書における用語についてこの場で解説しておきたい。 まず, 本 書で「不定愁訴」と呼称しているものは,「Medically Unexplained Symptoms(MUS)」と呼ばれる概念と同一のものである。つまり,適 切な検査をしても診断がつかない症状のことを指している。
次に,本書には「総合診療医」「家庭医」「一般医」という用語が出てく るが,これらは概ね相互に交換可能な意味で用いている。敢えて言うな ら,総合診療医は「セッティングにかかわらずプライマリ・ケアを提供 するトレーニングを受けた医師」を,家庭医は「診療所を基盤としたプ ライマリ・ケアを提供するトレーニングを受けた医師」を,一般医は「診 療所を基盤としたプライマリ・ケアを提供する医師」を意識して用いて いる。MUSが診療所で経験されやすいことと,医師の中に占める一般 医の割合の高さを考慮し,本書はより一般医の手に届くことを想定して 記しているが,これらのどのターゲットにも利用価値が高くなるように 構成した。
本書が少しでも,現場で悩み,苦しみ,それでもケアを諦めないプラ イマリ・ケア医にとって,MUS診療を続けていくことの助けになって くれることを,切に願う。
2020年2月 加藤光樹