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顎関節脱臼

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
近藤壽郎 (日本大学松戸歯学部顎顔面外科学講座教授)
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  • ■疾患メモ

    関節脱臼は一般的に,関節構造が許容される可動範囲を逸脱し,自力による復元が不能な状態に陥ることを言う。顎関節においても下顎頭の前方脱臼が生じる。この場合,下顎頭が側頭骨関節隆起を超えて前方へ推進したのち,そのまま固定状態となり閉口不能をきたす。

    顎関節脱臼の原因には,外傷性の原因として,開口状態下での頤部強打などが挙げられる。その他の原因としては,限度を超えた開口すなわち大あくび,大笑い,歯科治療時の印象採得,下顎埋伏智歯などの抜歯,全身麻酔導入時における不適切な喉頭展開や過剰な開口などによることがある。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈新鮮(急性)脱臼と陳旧性(慢性)脱臼〉

    顎関節脱臼が発症して間もない状態を新鮮(急性)脱臼と呼び,発症後長期間(2週間以上)放置され,整復が困難な状況に陥った場合を陳旧性(慢性)脱臼という。

    〈習慣性脱臼〉

    通常の下顎運動の経過中においても容易かつ頻繁に下顎頭が脱臼してしまう状態を言う。習慣性脱臼は,臨床における便宜的な分類であり,その本質は前方脱臼であり,完全脱臼の場合もあれば,自己整復が可能な程度の場合もある。不随意運動などの錐体外路症状がある場合では,習慣性顎関節脱臼が発生しやすく,脳血管障害,パーキンソン症候群,ウインタミン®およびコントミン®などのフェノチアジン系薬剤などの向精神薬の服用などがその背景となる。

    顎関節脱臼では,両側性と片側性の場合で表現される臨床症状に違いがある。両側性顎関節脱臼では閉口不能となる。下顎は前方へ突出し,咬合は前歯部で著しい開咬となる。顔貌は面長で鼻唇溝の消失がみられる。咀嚼は不能となり,口唇閉鎖困難のため流涎の状態となる。また触診により両側下顎窩上の耳前部皮膚の陥凹が認められ,圧痛がある。新鮮脱臼では両側顎関節に自発痛を自覚する場合がある。片側性の場合では,下顎正中の健側偏位を認め,顔貌は面長であるが下顔面の非対称がみられる。触診により患側下顎窩上の耳前部皮膚の陥凹が認められ,圧痛が認められる。

    陳旧性脱臼では,時間経過とともに疼痛などの自覚症状は寛解する。閉口不能状態もしだいに改善し,臼歯部での咬合がわずかながら可能となる。しかし下顎は前突状態が固定しており,咀嚼機能の低下ならびに発音の障害などが後遺した状態となる。

    【検査所見】

    画像:新鮮顎関節脱臼では,下顎頭は側頭骨関節隆起を越え,下顎頭後面と関節隆起前斜面部との密接像が認められる。陳旧性顎関節脱臼では,下顎頭後面と関節隆起前斜面部との間隙の狭小化や下顎頭後上面部の骨吸収増が認められることがある。また相当に長期経過した慢性例では,骨性強直症となることもある。

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