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高山病

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
篠崎克洋 (山形市立病院済生館救急科科長)
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  • ■治療の考え方

    急性高山病は,吸入酸素分圧低下による低酸素血症が病因で,脳血管拡張,脳血流増加,血管内圧上昇による透過性亢進が起こる。

    軽症例では頭痛が主で,鎮痛薬や利尿薬で対応する。重症例では肺水腫や脳浮腫をきたし,適切な呼吸・循環管理,利尿薬や副腎皮質ステロイドによる治療が必要となる。

    慢性高山病は,標高2500m以上の高地居住者にみられる長期的な慢性低酸素状態への適応不全で,多血症,肺高血圧症,心不全を呈する。わが国では,まず問題とならない。唯一の治療法は居住高度を下げることであるが,完全寛解までは数カ月を要する。瀉血でも一時的に症状が緩和する。

    ■病歴聴取のポイント

    標高2500m以上の高地への紀行歴や生活歴から疑う。

    急性高山病(広義)は,症状と特徴から,狭義の急性高山病(acute mountain sickness:AMS),高地肺水腫(high altitude pulmonary edema:HAPE),高地脳浮腫(high altitude cerebral edema:HACE)にわけて考えると理解しやすい。

    【発症様式】

    新しい高度に到達して,AMSは4~24時間の間に,HAPEは高度3000m以上,HACEは高度4000~5000m以上で,24時間以上してからの発症が多い1)

    AMS:頭全体が痛む頭痛に加え,消化器症状(食欲低下,悪心・嘔吐),動悸,軽労作時の呼吸困難・脱力,ふらつき・めまい,睡眠障害などがみられる。

    HAPE:咳嗽,安静時の呼吸困難,頻呼吸,血性・泡沫状の喀痰,動悸,胸部絞扼感,虚弱感,運動能力低下などがみられる。

    HACE:言動・行動の異常,精神状態の変化(周囲への無関心,不穏,錯乱・幻覚),意識レベルの変化あるいは運動失調(ふらつき,回転性めまい)などがみられる。

    【持続時間】

    AMS:2~3時間後には消失することが多く,通常1~2日で治癒する。

    HAPE,HACE:初期治療が重要となる。適切に治療すれば迅速に回復するが,治療がなされないと数時間から1~2日で致死的となる。最重症例では昏睡や呼吸筋麻痺を呈して死に至る。

    【その他】

    AMSは罹患歴のある者や高齢者に発症しやすく,数%は重症化する。

    症状・徴候および診断基準2)に示す。AMSからHAPE,HACEへは連続したものと考えられており,3者を区分するよりも重症度を把握することのほうが重要である。

    01_54_高山病

    ■バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    呼吸数,呼吸様式を観察し,頻呼吸,起坐呼吸などの努力呼吸の有無,経皮的酸素飽和度(SpO2)を調べる。頻脈や中枢神経系の異常の有無も調べ,体温測定も行う。

    【身体診察】

    浮腫,チアノーゼの有無や性状に注意する。AMSでは正常ないし末梢の浮腫,HAPEは中心性チアノーゼ,HACEは中心性チアノーゼや頸静脈怒張を認めることがある。

    聴診で湿性ラ音または笛声音の聴取,中心性チアノーゼの存在はHAPEの可能性がある。

    神経学的検査で,腱反射の減弱,外眼筋麻痺(複視),指鼻試験・つま先踵試験などに異常があればHAPE,HACEの可能性がある。立位保持困難なほどの運動失調は最重症である。

    外傷の有無にも注意する。

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