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四肢外傷

登録日:
2017-08-16
最終更新日:
2017-07-26
田島康介 (藤田保健衛生大学病院救急科教授)
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  • ■治療の考え方

    先に四肢の局所をみるのではなく,ABC(気道air way,呼吸breathing,循環circulation)の処置を優先する。

    次に,創傷処置における感染予防が肝要である。骨折や脱臼の処置より優先すべきである。

    ■病歴聴取のポイント1)

    受傷時刻:創傷に関して,受傷後6時間までをgolden periodと言う。その時間までに適切に創を洗浄し,必要に応じてデブリードマンを追加し閉創しても感染率は上昇しないとされる。開放骨折であっても,golden period以内であれば適切に骨を固定してから洗浄・デブリードマンを施行すれば閉創してかまわない。しかし,骨折の処置に対応できない場合は,golden periodを意識して専門医に迅速にコンサルトする。

    受傷機転:割れたガラスによる損傷などでは,創内に異物残留の可能性がある。鋭利な刃物による受傷では,家庭用のカッターによるものと肉などの調理用ナイフによるものでは,感染のリスクが大きく異なる。路上での転倒による挫創でも,直接アスファルトによって皮膚が破綻した創では土壌汚染があるが,着衣の破損がなく着衣の中で皮膚が破綻した創では土壌汚染はないと考えられる。

    病歴:糖尿病患者やステロイド服用者では感染のリスクが増す。血液凝固能の異常をきたす既往歴(肝硬変・血液疾患など),抗凝固薬や抗血小板薬の内服者では,処置後の後出血が持続する可能性を念頭に置く。

    高齢者や骨粗鬆症を有する患者では,軽微な外力でも骨折することがある。小児や高齢者においては,受傷機転から想定される外傷と重症度とが異なるときは,虐待の可能性も考える。

    ■バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    あくまでも気道,呼吸,循環などの全身状態の管理が優先される。これがクリアされなければ,創傷の処置や骨折,脱臼の治療に移行してはならない。

    創傷では,出血の活動性の有無を確認する。活動性の出血がある場合はその部位を圧迫して止血し,出血量によっては静脈路確保や輸血を考慮する。

    【身体診察】

    変形:四肢の変形は左右差をみるとわかりやすい。骨折や脱臼では健側と比較し,外見上の変形や陥凹,激しい疼痛,緊満感や皮下出血などを認める。特に緊満感が強く,運動時痛を強く訴える場合はコンパートメント症候群である可能性が高い(「§1-41 コンパートメント症候群」参照)。正常でない屈曲,短縮,回旋変形は骨折を強く示唆する。

    皮下出血:単なる打撲によっても皮下出血がみられるが,骨折ではより広い範囲での皮下出血がみられる。関節内での損傷では関節内血腫であり,関節内の骨折や靱帯損傷を示唆する。

    異常動揺性:関節に健側と比し明らかに他動的な動揺がみられれば,関節の靱帯損傷や関節近傍での骨折が示唆される。関節外での動揺は,同部での骨折を示唆する。

    感覚障害:受傷部位以遠に感覚障害がみられる場合,創傷を伴う場合は同部での神経損傷が疑われる。創傷を認めない感覚障害では,骨折や脱臼による神経の圧迫,神経の牽引による損傷,あるいはコンパートメント症候群による神経障害を考える。

    運動障害:受傷部以遠の運動障害を確認する。創傷を伴う場合は,同部での神経損傷による麻痺としての運動障害と,筋や腱の損傷に伴う物理的な運動障害が示唆される。創傷がない場合はコンパートメント症候群も考える。

    蒼白・脈拍消失:循環障害を示唆する。コンパートメント症候群としては末期的状態で,直ちに対応しないと不可逆性の変化をきたす。

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