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咳・痰

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  • ■緊急時の処置

    低酸素血症や呼吸困難を伴うときは,診断よりは酸素投与・気道確保などの処置を速やかに開始する。

    【各疾患に特異的な治療】

    〈急性上気道炎〉

    抗菌薬は不要である。非特異的治療を参照(後述)。

    〈気管支炎〉

    通常,抗菌薬は不要である。非特異的治療を参照。ただし,高齢者や免疫抑制者,慢性呼吸器疾患患者では,抗菌薬を考慮する。

    〈細菌性肺炎〉

    成人市中肺炎診療ガイドライン等を参照する。

    〈感冒後咳嗽〉

    通常,抗菌薬は不要だが,症状が強ければ非特異的治療を参照。

    〈咳喘息〉

    症状が毎日ないものを軽症,毎日あるものを中等症と言う。症状に応じてβ2刺激薬の併用を考慮する。

    軽症では以下のように処方する。

    一手目:フルタイド®100μg(フルチカゾン)1回100μg 1日2回(朝・夕,吸入),またはパルミコート®200μg(ブデソニド)1回200μg 1日2回(朝・夕,吸入)

    中等症では以下のように処方する。

    一手目:フルタイド®200μg(フルチカゾン)1回200μg 1日2回(朝・夕,吸入),またはパルミコート®400μg(ブデソニド)1回400μg 1日2回(朝・夕,吸入)

    二手目:〈一手目に追加〉キプレス®10mg錠(モンテルカスト)1回1錠 1日1回(就寝前)

    咳嗽発作時にはサルタノール®インヘラー®等を使用する。

    一手目:サルタノール®インヘラー®100μg(サルブタモール)1回200μg(吸入,1日4回まで)

    なお,キプレス®,サルタノール®を使用する際は,気管支喘息の病名が必要である。

    〈アトピー咳嗽〉

    一手目:アレロック®5mg錠(オロパタジン)1回1錠 1日2回(朝・就寝前),またはアレグラ®60mg錠(フェキソフェナジン)1回1錠 1日2回(朝・就寝前)

    二手目:〈一手目に追加〉フルタイド®100μg(フルチカゾン)1回100μg 1日2回(朝・夕,吸入),またはパルミコート®200μg(ブデソニド)1回200μg 1日2回(朝・夕,吸入)

    〈副鼻腔気管支症候群〉

    一手目:エリスロシン®200mg錠(エリスロマイシン)1回1錠 1日2回(4~8週間)またはクラリス®200mg錠(クラリスロマイシン)1回1錠 1日1回(4~8週間),ムコダイン®500mg錠(カルボシステイン)1回1錠 1日3回併用

    〈逆流性食道炎〉

    以下のように処方する。プロトンポンプ阻害薬が使用できないときにはヒスタミンH2受容体拮抗薬を用いる。

    一手目:ネキシウム®20mgカプセル(エソメプラゾール)1回1カプセル 1日1回(8週間),またはタケプロン®30mgOD錠(ランソプラゾール)1回1錠 1日1回(8週間),またはガスター®20mg錠(ファモチジン)1回1錠 1日2回(朝・夕)

    〈ACE阻害薬による咳〉

    薬剤の中止またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)への変更を行う。ARBへ変更後も改善しなければ,ARBも中止する。

    【非特異的治療】

    〈乾性咳嗽〉

    軽度の場合は以下のように処方する。

    一手目:メジコン®15mg錠(デキストロメトルファン)1回1錠 1日3回,または麦門冬湯(ばくもんどうとう)1回3g 1日3回

    重度の場合には,以下のように処方する。

    一手目:リン酸コデイン散1%(コデインリン酸塩)1回2g 1日3回

    〈湿性咳嗽〉

    一手目:ムコダイン®500mg錠(カルボシステイン)1回1錠 1日3回,またはビソルボン®4mg錠(ブロムヘキシン)1回1錠 1日3回,または小青竜湯(しょうせいりゅうとう)1回3g 1日3回

    ■検査および鑑別診断のポイント

    【画像】

    胸部X線:肺炎や心不全,肺癌・結核などの肺疾患を疑うときには施行してよい。

    CT:単純写真では難しい喉頭や食道,気管支・肺の下葉などの評価に有用である。

    【喀痰検査】

    喀痰のグラム染色・培養:細菌性肺炎が疑われるときには有用である。特に,喀痰のグラム染色は起炎菌を迅速に同定することが可能である。

    喀痰抗酸菌検査:結核・非結核性抗酸菌などを疑うときには必須である。

    喀痰細胞診:肺癌や咳喘息の診断に有用である。

    【生化学】

    呼気NO測定:喘息の診断に有用である。

    【生理検査】

    呼吸機能検査:肺疾患や気道病変の評価に有用である。

    ■落とし穴・禁忌事項

    咳のみを主訴に受診する心不全や肺炎,慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪もある。高齢者や慢性の呼吸器・心疾患,精神疾患のある患者では軽症にみえることもあり,注意が必要である。これらのリスクのある患者では必ずSpO2と呼吸数を確認する。

    原因不明の咳嗽では,稀に反回神経麻痺,上気道狭窄など重篤な疾患があり,必要に応じて耳鼻科にコンサルトする。

    ■その後の対応

    治療にもかかわらず低酸素や呼吸困難が出現するときは,前述の緊急時の対応をする。

    治療後も症状が改善しなければ,他の疾患の可能性がないか,もしくは他の病態がないか再評価する。

    咳の合併症として,咳失神,結膜下出血,静脈瘤や動脈瘤の破裂,不整脈,頭痛,鼠径ヘルニア,胃食道逆流症,膀胱尿管逆流症,肋骨骨折,気管損傷,縦隔気腫・気胸,喘息悪化,QOLの低下が挙げられる。

    ■文献・参考資料

    【参考】

    ▶ 日本呼吸器学会:咳嗽に関するガイドライン. 第2版. メディカルレビュー社, 2012.

    【執筆者】 新垣大智(藤田保健衛生大学医学部救急総合内科)

    【執筆者】 岩田充永(藤田保健衛生大学医学部救急総合内科教授)

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