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胸痛

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  • ■緊急時の処置

    心肺停止:直ちにモニター心電図波形を確認する。心室細動(VF),脈なし心室頻拍(VT)であれば直ちに除細動を実施し,二次救命処置(advanced life support:ALS)に準じた蘇生を行う。

    ショック:細胞外液(ラクテック®,ソルアセト®F)を急速に輸注し,ドパミン(カタボン®)5~15μg/kg/分の投与を考慮する。緊張性気胸が原因と判断したら,直ちに患側第2肋間鎖骨中線を14G以上の太い注射針で穿刺し脱気する。トロッカーカテーテル挿入は脱気後に行う。

    低酸素血症:酸素投与を行う。リザーバー付き酸素マスクは酸素流量6L/分でFIO2=0.6,10L/分でFIO2>0.9となる。気管挿管による陽圧呼吸は,気胸を増悪させる可能性があり注意を要する。

    高血圧緊急症:180/120mmHg以上で臓器障害を伴う。選択薬としては,ニトログリセリン,ニカルジピン,ジルチアゼム,プロプラノロールがある。急性冠症候群ではニトログリセリンを用いるが,ニカルジピンは使用に注意が必要である。急性心不全以外ではジルチアゼムを用いてもよい。

    一手目:ミリスロール®注(ニトログリセリン)5~100μg/分(2~5分持続静注),またはペルジピン®注射液(ニカルジピン)0.5~6μg/kg/分(5~10分持続静注),またはヘルベッサー®注射用(ジルチアゼム)5~15μg/kg/分(5分以内,持続静注),またはインデラル®注射液(プロプラノロール)初回2~10mg(1mg/分で静注,追加投与2~4mg 4~6時間ごと)

    ■検査および鑑別診断のポイント

    【心電図】

    徐脈/頻脈,期外収縮の有無,ST変化,Q波形成などから循環動態,心筋虚血を推定する。ST上昇を伴わない心筋梗塞(non-ST segment elevation myocardial infarction:NSTEMI)に注意する。

    【画像】

    胸部X線(重症では坐位もしくは臥位正面):気胸を鑑別する。心陰影拡大は,心拡大だけでなく心嚢液貯留による場合もある。大動脈内腔にある内膜石灰化像は大動脈解離を示唆する。knuckleサイン(中枢側肺動脈の拡張),Westermarkサイン(肺野の一部の透過性亢進)をみたら,急性肺血栓梗塞症を疑う。

    心臓超音波:左室壁運動低下,僧帽弁逆流,下大静脈拡張,心嚢液貯留から心筋梗塞,心不全を推定する。上行大動脈にintimal flap,解離腔を確認できればStanford A型大動脈解離と診断する。

    胸部造影CT:肺動脈塞栓症,大動脈解離(intimal flap,偽腔形成),心嚢炎(心嚢液貯留),肺炎(浸潤影)胸膜炎(胸膜肥厚)などを鑑別する。

    【生化学】

    心筋マーカー:CK-MBは心筋梗塞発症後4~6時間で上昇する。トロポニンI/Tは3~4時間,FABP(fatty acid-binding protein)は1~2時間で上昇するが,腎機能低下例で偽陽性あり。いずれも心筋炎で上昇する。

    D-ダイマー:急性肺血栓塞栓症,急性大動脈解離,虚血性心疾患などで上昇。急性大動脈解離では他疾患より早期(発症6時間以内)に上昇する1)

    ■落とし穴・禁忌事項

    緊急性の高い疾患を除外せずに,蓋然性の高い疾患を考慮すべきでない。

    呼吸循環動態が安定するまでCTスキャン撮影のための搬送を避ける。

    痛みが強くないことでは重篤な疾患を否定できない。心筋梗塞の6~15%で胸痛を認めず(糖尿病合併例では32~42%)2),急性大動脈解離でも4.5%が無症状とされる3)

    病歴や身体所見から診断できれば,画像や検体検査の結果を待って時間を空費しないようにする。急性心筋梗塞は病歴と心電図でほぼ診断可能である。緊張性気胸は身体所見で診断し,可及的速やかに穿刺脱気を行う。

    虚血性心疾患でも胸壁の圧痛を認めることがあり,運動器の障害と診断する前に鑑別を要する。

    精神疾患は身体疾患を否定後に考慮し,まず身体疾患の可能性を評価する。

    ■その後の対応

    【救急】

    急性心筋梗塞:循環器内科にコンサルトし,経皮的冠動脈治療(percutaneous coronary intervention:PCI)を行う。

    急性大動脈解離:心臓外科にコンサルトし,Stanford A型は緊急手術,B型は保存的治療(安静,降圧)を行う。

    急性肺血栓塞栓症:血栓溶解療法,血栓吸引または破砕療法を行う。

    【準救急】

    気胸:胸腔ドレナージを行う。緊張性気胸はまず,穿刺脱気によりショックを離脱する。

    心嚢炎:原疾患の治療を行う。ドレナージ,抗菌薬投与,ステロイド投与を行う。

    心筋炎:安静維持に努める。不整脈や心不全への対応を行う。

    帯状疱疹:早期に抗ウイルス薬(アシクロビル,ビダラビンなど)を,経静脈もしくは経口投与する。

    【その他】

    筋骨格痛,肋軟骨炎,肋間神経痛:鎮痛薬(NSAIDs)による疼痛対策が主体となる。

    心因性胸痛:精神科,ペインクリニックにコンサルトする。

    ■文献・参考資料

    【文献】

    1) Suzuki T, et al:Circulation. 2009;119(20):2702-7.

    2) Nesto RW, et al:Am J Med. 1986;80(4C):40-7.

    3) Tsai TT, et al:Circulation. 2005;112(24):3802-13.

    【参考】

    ▶ 木村一雄, 他:JRC(日本版)ガイドライン2010(確定版) 急性冠症候群(ACS), 2010.

    [http://www.qqzaidan.jp/pdf_5/guideline5_ACS_kakutei.pdf]

    ▶ 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).

    [http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf]

    【執筆者】 芳賀佳之(埼玉医科大学病院急患センターER教授)

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