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No.5104:コロナ治療におけるステロイド─抗炎症療法としての位置づけ

登録日:
2022-02-15
最終更新日:
2023-01-23

執筆:田中希宇人(日本鋼管病院呼吸器内科医長)

2005年慶應義塾大学医学部卒業。大学病院および関連病院での勤務を経て,2009年慶應義塾大学医学部呼吸器内科,2021年から現職。呼吸器内科医としてコロナ診療に携わる傍ら,ブログやTwitter(@cutetanaka)で医療情報発信を行っている。

1 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状
・2020年1月に新型コロナウイルスが日本に上陸した。
・当初は敵の正体も不明,エビデンスのある薬もない状況だった。
・この2年間で世界中から多くのエビデンスが集まり,医療者サイドも効果の高いワクチンを接種して対応しているという現状である。
・もちろん今後も,「デルタ株」「オミクロン株」のように,変異を繰り返す強敵に対して油断はできない。
・COVID-19治療薬のひとつであるステロイドについて,エビデンスと実臨床の経験をふまえて解説する。

2 COVID-19に対する標準治療
・COVID-19に対する薬剤の検討は世界中で進んでおり,レムデシビル,バリシチニブ,カシリビマブ/イムデビマブ,ソトロビマブ,モルヌピラビルの5種類が2022年1月18日現在,COVID-19に対して日本国内で承認されている。
■レムデシビル:RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬。肺炎像のある「中等症Ⅰ」以上のCOVID-19症例に,5日間投与することで臨床的な症状の改善が見込める。
■バリシチニブ:JAK阻害薬。レムデシビル投与下で酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」以上のCOVID-19症例に,14日以内,バリシチニブを投与することで臨床的な症状の改善が見込める。
■カシリビマブ/イムデビマブ:中和抗体薬。重症化リスクのある酸素投与が不要な「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に,症状発現から1週間以内の単回投与で入院や死亡を抑制する。ただし,オミクロン株に対する投与は推奨されていない。
■ソトロビマブ:中和抗体薬。重症化リスクのある酸素投与が不要な「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に,症状発現から1週間以内の単回投与で入院や死亡を抑制する。オミクロン株に対しても有効性が期待できるとされている。
■モルヌピラビル:RNAポリメラーゼ阻害薬。重症化リスクのある酸素投与が不要な「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に,症状発現から5日以内に内服を開始することで入院や死亡を抑制する。
・上記の5種類以外にも,ステロイドや抗凝固薬,非薬物療法についても知見が集積しており,標準治療につき簡単に概説する(2022年1月21日,抗IL- 6受容体抗体であるトシリズマブが中等症Ⅱ以上のCOVID-19症例に対して追加承認された)。

3 コロナ治療におけるステロイド
・COVID-19は全身性の炎症反応から,広範な肺障害や多臓器不全を起こすことがあり,抗炎症薬としてステロイドが使用される。
(1)デキサメタゾン
・デキサメタゾンが標準治療に比べ死亡率を減少させたことから,酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」以上のCOVID-19症例に対する標準治療となっている。
(2)その他の全身性ステロイド
・デキサメタゾン以外にも,メチルプレドニゾロンや,強力なステロイド治療としてステロイドパルス療法でCOVID-19症例に対する効果を検討した報告がある。
(3)吸入ステロイド
・シクレソニドやブデソニドなどの吸入ステロイドによるCOVID-19症例に対する効果を検討した報告があり,シクレソニドは肺炎増悪率が高かったと結論づけられたが,ブデソニドは症状回復までの時間を短縮させた。

伝えたいこと…
・酸素投与が必要なCOVID-19症例に対して,ステロイド治療は重要な選択肢となりうるが,そうでない症例に関しては逆効果になることもありうる。当然のことであるが,COVID-19というだけで機械的に治療法を選択するのではなく,ステロイドが必要な症例の選択,投与開始日や投与期間,副作用の管理,その他のCOVID-19治療薬の選択など,症例ごとに繊細かつ十分に検討されるべきと考える。

1 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生してから約2年が経過した。2022年1月末時点において全世界で感染者数の累計が約3億8000万人,その1.5%に当たる約560万人が死亡し,世界を震撼させている。わが国では感染者数の累計が約282万人,死亡者数が約1万8000人ということで,約0.6%の死亡率となっている。

2021年6月初旬から徐々にアルファ株からデルタ株へ置き換わり,8月中旬には感染第5波が全国に広がったのは記憶に新しい。現在は南アフリカやそのほかの国々から報告された新しい変異ウイルスである「オミクロン株」が世界を席巻している状況である。世界保健機関(WHO)はオミクロン株を「懸念される変異株(variants of concern:VOC)」として位置づけ,現在もまだまだ気を許さないCOVID-19と人類との戦いが続いている。

当初は敵の特徴がわからなかったため,真っ白な肺炎像を見て広域抗菌薬やステロイドを大量に投与して,後はお祈りするのみであった。しかし,今は,COVID-19の特徴はもとよりエビデンスのある治療薬がそろってきたため,2年前と比べたら戦い方も格段に慣れてきた印象がある。新型コロナウイルスと出会った当初は,頭のてっぺんから足の先までfull PPEと呼ばれる感染防護具を身に纏っても防護具のスキマを気にしながら診療にあたっていたことや,素性のわからない見えない敵に対して何度となく手洗いやアルコール消毒を行っていたことなどが思い出される。しかしながら,2021年初めには感染予防効果や重症化抑制効果の高い新型コロナワクチンであるmRNAワクチンが日本でも普及し,現在は鉄の鎧を身に纏ったような安心感を持って診療に当たることができている。

それでは,現在までのエビデンスや実臨床の経験をふまえて,COVID-19に対する治療薬,そして抗炎症薬として実臨床で使用しているステロイドについて解説していくこととする。

2 COVID-19に対する標準治療

COVID-19に対する治療薬は世界中で開発が進められているところであり,有効性を確立したいくつかの治療薬が日本でもいち早く承認されている。抗ウイルス薬としてレムデシビルとモルヌピラビル,抗炎症薬としてバリシチニブとトシリズマブ,中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブとソトロビマブ,の計6種類がCOVID-19に対して日本国内で承認されている(2022年1月末時点)(表1)。

上記の6種類以外にも臨床の現場ではデキサメタゾンや,血栓予防として抗凝固薬のヘパリンを頻用している。なお,COVID-19に対する非薬物療法としては理学療法や酸素療法,挿管/人工呼吸管理や体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)などがある。それだけでも膨大な内容となるため,本稿では割愛する。

COVID-19の臨床経過では,発症後数日はウイルスの増殖による咳嗽・鼻汁・発熱などの感冒症状がメインであり,発症1週間後からは宿主免疫反応による炎症がメインの病態となってくる(図1)1)。新型コロナウイルスの病態を考えると,発症早期には抗ウイルス薬や中和抗体薬による治療が重要となる。多くのCOVID-19では1週間から10日前後で症状が軽快することが多いが,症状が徐々に悪化する症例が一定数認められる。そのような症例に対し,発症1週間以降の治療としては抗炎症薬による治療がカギとなってくることが知られている2)

(1)レムデシビル

レムデシビルは,もともとエボラウイルス感染症に対して開発されてきたRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬であるが,試験管内で新型コロナウイルスに対して良好な活性を示した3)ことから,治療薬として当初から検討されてきた。

欧米やアジアで実施された「ACTT-1試験」では,標準治療に比べレムデシビル投与群で,COVID-19の臨床的症状について15日から10日と,5日間早く改善が認められた4)。また,同じく欧米やアジアで軽症COVID-19を対象に実施された試験では,レムデシビル5日間投与群,10日間投与群,標準治療群の3群に割り付けられ,5日間投与群で標準治療群に比べ11日目の臨床的な改善が多く認められたが,10日間投与群では標準治療群と差を認めなかった5。このようなデータから現在,実臨床では肺炎像のあるCOVID-19,すなわち「中等症Ⅰ」以上の症例で,レムデシビル5日間投与(最大14日)が推奨されている。

(2)バリシチニブ

バリシチニブは,JAK(Janus kinase,ヤヌスキナーゼ)ファミリーのJAK1/JAK2分子に高い選択性のあるJAK阻害薬であり,日本では関節リウマチに適応のある薬剤である。

入院でレムデシビル治療中のCOVID-19症例に対してバリシチニブを投与した群では,対照群に比べ回復までの期間を8日から7日に改善し,15日経過した時点での臨床的な改善が1.3倍多くの症例で認められた6)。また,入院のCOVID-19症例に対してバリシチニブとプラセボを投与した二重盲検試験である「COV-BARRIER試験」では,人工呼吸管理または死亡の割合はプラセボ群と有意差を認めなかったが,治療開始28日目までの死亡率はバリシチニブ群で有意に低かった7)。現在,レムデシビル併用下で酸素を必要としている「中等症Ⅱ」以上のCOVID-19症例に,14日以内でバリシチニブの投与が考慮される。

(3)カシリビマブ/イムデビマブ

カシリビマブ/イムデビマブは,COVID-19に最初に適応となった中和抗体薬であり,新型コロナウイルスのスパイク蛋白の受容体結合ドメイン(receptor binding domain:RBD)に対する抗体である。

外来での重症化リスクのあるCOVID-19症例に対して,カシリビマブ/イムデビマブ単回投与群は対照群に比べ,入院や全死亡を有意に減少させた8)。また,新型コロナウイルス感染者と96時間以内に家庭内で接触のあった症例を対象にカシリビマブ/イムデビマブ単回皮下投与を行うことにより,COVID-19発症リスクを81.4%減少させる9)というデータも報告された。以上から,重症化リスクのある酸素投与を必要としない「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に対して,症状発現から1週間以内での単回投与が推奨されている。オミクロン株に対しては中和活性が低下しており,オミクロン株に感染していることが明らかな症例に対しての投与は推奨されていない。

(4)ソトロビマブ

ソトロビマブは,重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)の感染者から得られた抗体をベースにつくられた中和抗体薬であり,抗体のFc領域に修飾が加えられており,半年以上の長い半減期が得られるように設計されている。

重症化リスクのある軽症COVID-19症例に対して,ソトロビマブ単回投与群は対照群と比較して,投与29日以内の入院または死亡を85%減少させる結果10)が報告された。このようなデータから,カシリビマブ/イムデビマブと同様に,重症化リスクのある酸素投与を必要としない「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に対して,症状発現から1週間以内での単回投与が推奨されている。オミクロン株に対しても中和活性は保たれ,有効性が期待できるとされている。

(5)モルヌピラビル

モルヌピラビルは,新型コロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼに作用することによりウイルスの増殖を抑える薬剤であり,2021年12月24日に特例承認された。

重症化リスクのある酸素投与を必要としないCOVID-19に対してモルヌピラビルとプラセボを比較した「MOVe-OUT試験」において,モルヌピラビル1回800mg 1日2回,5日間経口投与群の入院と死亡の割合をみた重症化率が7.3%と,プラセボ群の14.1%と比較して相対リスクが48%減少したことが報告された11)。現在,重症化リスクのある酸素投与を必要としない「軽症」「中等症Ⅰ」のCOVID-19症例に対して,症状発現から5日以内の投与が推奨されている。動物での毒性試験において胎児の体重減少や流産,奇形などの影響が報告されているため,妊婦や妊娠している可能性がある女性に対しては投与しないこととしている。

(6)その他の標準治療

ヘパリンによる抗凝固療法は,肥満のCOVID-19症例や,呼吸困難で体動が難しい症例,Dダイマーが正常上限の3~4倍を超えるような症例に対して,推奨されている。重症感染症や呼吸不全自体が深部静脈血栓症のリスク因子であり,さらにCOVID-19ではサイトカインストームや血管内皮障害などにより,線溶系の亢進や抑制などの凝固異常が合併していると推定されている。42の臨床試験からCOVID-19を8271例集積したメタ解析では,静脈血栓塞栓症が全症例中21%に認められ,ICUに入室するような症例では31%と高い頻度で発生すると報告された12)

日本静脈学会・肺塞栓症研究会・日本血管外科学会・日本脈管学会が発表している『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予防の診療指針 2021年4月5日版(Version 2.0)』では,酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」の症例で“ヘパリンの予防投与を考慮”し,ICU管理や人工呼吸管理の「重症」の症例では“ヘパリン投与を行う”としている。逆に酸素投与が不要な「軽症」「中等症Ⅰ」においては“(基本的には)抗凝固療法は不要”とし,離床・下肢運動・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法などを中心とした理学療法が勧められている。

2022年1月21日に,抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブが,酸素投与を必要とする「中等症Ⅱ」以上のCOVID-19症例に対して追加承認された。ステロイド併用下で,トシリズマブ8mg/kgの点滴静注(8時間の間隔を空けてさらに1回追加投与可能)を行うことにより,死亡率を下げることが期待されている。


COVID-19に対する治療薬や治療マネジメントは,この2年間で多くのエビデンスが集積され,診療の手引きも頻回に改訂されている。しかし,COVID-19診療にあたるすべての医療者が常に最新の情報を得られるわけではないので,当院では病院内で最新の治療ストラテジーの認識を統一させるために図2のような「COVID-19治療マネジメント まとめ」を作成して,関係者に配布したり掲示したりして周知を図っている。

各医療機関でCOVID-19診療に対して行っている面白い取り組みや現場のノウハウなどがあったら是非ご教示頂ければ幸いである。

3 コロナ治療におけるステロイド

COVID-19では経過中に全身性の炎症反応を発現し,広範な肺障害や多臓器不全を引き起こすことが知られている。このような過度の炎症反応を抑える,または予防する目的で,抗炎症薬としてステロイドで加療されることがある。特に酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」「重症」に分類されるCOVID-19に対しては,デキサメタゾンによる治療が推奨されている。なお,デキサメタゾンは重症感染症への適応がある。デキサメタゾンをはじめ,COVID-19に対するステロイドのエビデンスについて振り返ってみたい。

(1)デキサメタゾン

当初からCOVID-19のサイトカインストームによる影響が言われていたことや,COVID-19による肺炎像は間質性肺炎の急性増悪のようなびまん性すりガラス陰影を認めることから,エビデンスの乏しかった頃からステロイドによる治療を行っていた医療機関は多いのではないだろうか。2020年7月に英国から大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である「RECOVERY試験」のpreliminary reportが報告されてからは,COVID-19の治療薬として,自信を持ってステロイドが使用されることとなった。

「RECOVERY試験」では,デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs. 24.6%)させた(図3)13)。特に人工呼吸管理を要した症例において,デキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と,対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた(図4)13)。ただし,サブグループ解析では,試験登録時に酸素投与を必要としなかった群では予後改善効果に乏しかった(図5)13)


以上の結果から,実際の現場では酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」以上のCOVID-19に対してデキサメタゾン6mg(実際の臨床現場にて点滴でステロイドを投与する場合には,静注用のデキサメタゾン製剤が6.6mg規格のため,6.6mg/日投与されていることが多い)または同力価のステロイドで治療している。逆に,わが国の『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第6.0版』(2021年11月公開)においても,酸素投与を必要としない症例に対してはステロイドを使用すべきではなく,予後をむしろ悪化させる可能性が示唆されている,としている。

現時点で未査読ではあるが,COVID-19軽症例に対するステロイド加療を検討した米国の報告14)では,9058例のCOVID-19症例において,酸素投与が不要であった症例や鼻カヌラで酸素を投与していた症例ではステロイド加療群で90日後の生存率が低かったという結果(図6)であった。このような報告もあるので,軽症例,酸素投与を必要としない症例に対するステロイド治療に関しては慎重かつ十分に注意する必要がある。


次にステロイドの投与期間や投与開始日について考えてみよう。『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第6.0版』では,「デキサメタゾンとして6mg 1日1回10日間まで」と記載されているのみで,最適な投与期間や投与開始日については詳しく言及されていない。

COVID-19はウイルス感染症であり,発症初期はウイルスの増殖による症状がメインとされている。そのため,ウイルス感染症の発症初期に免疫を強く抑えるようなステロイド治療を行うことは,臨床医としては大変ためらわれる治療である,と当初から考えていた。ここで,聖路加国際病院から報告された,ステロイドで加療されたCOVID-19症例113例の臨床的な後ろ向きコホート研究15)を紹介したい。この研究では,COVID-19に対してステロイド加療終了後に症状や酸素化が悪化してしまった症例を「リバウンド症例」として定義し,リバウンド症例の特徴やステロイド投与開始日・投与期間についての詳細な検討がなされている。

リバウンド症例は発症から12日前後に多く認められ,20日目以降には認められないという特徴があった。さらに,リバウンド症例のステロイド加療は症状発症から5日目と発症早期に開始している症例が多く,治療期間も中央値で5日間とリバウンドしなかった症例に比べて短かったという結果(図7)であった。やはり,ウイルス感染症の発症早期にステロイド加療を行うことは,場合によっては逆効果なことがあり,発症から7日間あたり,そして治療期間としては7日間程度の「コロナステロイド7日ルール」(筆者考案)が重要かと考えることができる。

 

(2)その他の全身性ステロイド

デキサメタゾン以外のステロイド製剤のCOVID-19に対するエビデンスは乏しいが,メチルプレドニゾロンの報告をいくつか紹介したい。イランから報告されたランダム化比較試験16)で,日本での「中等症Ⅱ」以上の酸素投与が必要なCOVID-19症例に対して,デキサメタゾン(6mg固定用量)投与群とメチルプレドニゾロン(2mg/kg)投与群が比較検討された。この研究は86例と少数例での検討であるが,メチルプレドニゾロン投与群では投与5日目,10日目の臨床的な状態がデキサメタゾン群に比べて有意に改善した。また,入院中に死亡した症例を除外した検討では,メチルプレドニゾロン群で入院期間の平均値が7.43日とデキサメタゾン群の10.52日と比較して有意に短いという結果であった。

さらに,人工呼吸管理が必要なCOVID-19症例に対するステロイドの効果を検証した研究17)で,デキサメタゾンとメチルプレドニゾロンを比較したサブグループ解析ではメチルプレドニゾロン投与群において生存率が42%高かったという結果(図8)が示された。

いずれの研究においてもデキサメタゾンは6mgの固定用量で規定されているのに対し,メチルプレドニゾロンは体重換算で薬剤の投与量がコントロールされている。したがって,実臨床の現場においてデキサメタゾンで治療するにしても,他のステロイド製剤で治療するにしても,体格の大きな若者と体の小さなおばあちゃまとで同量のステロイドで治療するのではなく,年齢や体重を勘案すべきである,と考えている。また長期にステロイドで加療するとなると,消化性潰瘍・血糖値・骨粗鬆症,そしてニ次的なその他の感染症の発症に注意する必要があることは言うまでもない。

“強力なステロイド治療法”というと,ステロイドパルス療法を思い描く方が多いのではないだろうか。ただ,COVID-19に対するステロイドパルス療法についてのエビデンスは乏しい。1つ,COVID-19症例に対してステロイドパルス療法の効果を検証した論文18)を勉強したので,ここでお示ししたい。ただ,ステロイドパルス療法とは言っても,日本で汎用されている「メチルプレドニゾロン1000mg・3日間連続投与」ではなく,用量が1/4の「メチルプレドニゾロン250mg・3日間連続投与」(ここでは「ステロイド1/4パルス療法」と呼ぶ)による報告となっている。この研究では標準治療群に比べ,ステロイド1/4パルス療法群において生存率が高い結果(図9)18)であった。また,臨床的症状の改善も,ステロイド1/4パルス療法群で良好だったことが報告された。

 

ただし,日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会COVID-19対策タスクフォースが策定した『日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)』の特別編 『COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations 第4.1版改訂』(2021年11月公開)では,「中等症/重症COVID-19患者にステロイドパルス療法を行うか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)に対し,「酸素投与/入院加療を必要とする中等症患者,ならびに人工呼吸器管理/集中治療を必要とする重症患者に対するステロイドパルス療法については,現時点では推奨を提示しない(no recommendation)」としているので,留意されたい。

コクランデータベースでCOVID-19に対する全身性ステロイド投与の有効性について検討された報告19)もある。11のランダム化比較試験,8075例,中等症以上の症例が対象となっており,全身性ステロイドと標準治療が比較検討されている。ここで集積された全身性ステロイド治療症例の約75%がデキサメタゾンで加療されていた。この研究からは,ステロイド投与群と非投与の標準治療群で全死亡率の有意差は証明されなかった(図10)19)。このメタ解析の結果を見ると,総数の全死亡率はリスク比0.89,95%信頼区間(confidence interval:CI)が0.80~1.00であり,統計学的には有意差がないということになるが,このレビューの結論では,全身性ステロイド治療は臨床的には軽度の改善効果を認めるのだろう,と考えられている。


COVID-19診療において抗炎症薬のデキサメタゾンが頻用されているが,第5波では多くのCOVID-19症例に対して日本全国で一斉にデキサメタゾンが処方されたため,また,自宅療養中の症例に対しても処方が推進されたために,デキサメタゾンの出荷調整がかかってしまった時期を経験した。病院にデキサメタゾンが残りわずかという状況に出くわし,プレドニゾロンやメチルプレドニゾロンなど院内に残っているステロイド製剤でなんとか乗り越える必要があった。当時,「病院内でステロイド製剤が底を突くかもしれない状況が実際にありうるとは」と,本当に背筋が凍る思いで日々過ごしていたことが思い出される。

当院(日本鋼管病院/こうかんクリニック)では,筆者と薬剤部で協力してデキサメタゾン6mgと同力価のステロイド換算表を作成し,院内で周知することとした。デキサメタゾンはCOVID-19治療以外でも,たとえば様々な癌腫の治療としても重要な薬剤であり,本当に必要な症例に適正使用されるよう努めた。実際には,プレドニゾロン内服に変更して,多くの症例は乗り切った印象(下記の処方例)がある。

処方例 
●デキサメタゾン(4mg)1.5錠 分1(朝1.5錠)内服 7~10日間
●プレドニゾロン(5mg)8錠 分3(朝4錠,昼2錠,夜2錠)内服 7~10日間
●デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム6.6mg+生理食塩水100mL 朝1時間 点滴 7~10日間

当院での取り組みは医療情報サイトであるCareNet.comでもいち早く取り上げて頂き,現在ダウンロード可能な資材として配布されているので,活用して頂けると幸いである(表2)20)。TwitterやFacebookなどのSNS上でも大きな反響があり,全国のCOVID-19診療に従事している医療者から多くのコメントやご意見を頂いたことには,この場を借りて感謝を申し上げたい。

(3)吸入ステロイド

日本感染症学会で「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから,吸入ステロイドであるシクレソニド(オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され,話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことから,その効果は期待されていた。しかしながら,このケースシリーズを受けて厚生労働科学研究としてわが国で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第2相試験である「RACCO試験」で,その効果は否定的という結果だった21)

本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して,シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが,シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり,対症療法群の19%と比較しリスク差0.20,リスク比2.08と,有意差を持ってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論づけられた。以降,無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は,『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第6.0版』においても推奨されていない。

その他の吸入ステロイドとしては,ブデソニド吸入薬(パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国・オックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第2相試験「STOIC試験」では,酸素投与が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された。本研究では,per-protocol集団およびITT(intention-to-treat)集団における,COVID-19による救急受診や入院,自己申告での症状の回復までの日数,解熱薬が必要な日数などが評価された。結果,ブデソニド吸入群が標準治療群と比較して有意差を持ってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs. 14%,ITT集団:3% vs. 15%),症状の回復までの日数の短縮(7日 vs. 8日),解熱薬が必要な日数の割合の減少(27% vs. 50%)を認める結果(図11)22)であった。

 

英国オックスフォード大学Yuらが報告した「PRINCIPLE試験」は,65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4700例を対象に行われた。結果は,吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を標準治療群と比較して2.94日短縮(図12)23)し,「STOIC試験」と同様の結果が得られた。4700例の被検者は標準治療群1988例,標準治療+ブデソニド吸入群1073例,標準治療+その他の治療群1639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し,最大14日間投与するという治療で,喘息治療でいうところの高用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが,標準治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と,2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については,標準治療群8.8%,ブデソニド吸入群6.8%と,2ポイントの低下を認めたが,優越性閾値を満たさない結果であった。

これまでのCOVID-19に対する吸入ステロイドの有効性を検証した報告では主に,明らかな肺炎のない症例や,外来で管理できる症例に限った研究が多い。前述の「STOIC試験」でも酸素化の保たれている軽症例が対象となっているが,「PRINCIPLE試験」ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症のある症例が対象となっており,高リスク群に対する効果が示されたことは,大変期待できる結果であった。ただし慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)に対する吸入ステロイドは,新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ,COVID-19の感染予防に効果を示す24)と言われている。「PRINCIPLE試験」でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや,喘息やCOPD症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。また,ブデソニド吸入はタービュヘイラーというデバイスを用いて薬剤を投与する必要があるため,呼吸促拍している症例や人工呼吸管理の重症例に対しては,吸入ステロイドの投与は現実的には難しい。

また呼吸器内科医としては,重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まる25)26)ということが懸念材料である。「PRINCIPLE試験」では,重篤な有害事象として,ブデソニド吸入群での肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が報告されているが,治療薬とはまったく関係ないものとされており,懸念していた肺炎のリスクについては取り上げられていない。ただ,もともと吸入ステロイドであるブデソニドは,気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPD,増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり,ステロイドの頻繁な使用は吸入剤とはいえ,一抹の不安が残る。

さらに呼吸器内科医として気になる点としては,適切な吸入薬の使用やアドヒアランスの面が挙げられる。「PRINCIPLE試験」でのブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入,最大14日間であるが,症状の乏しいCOVID-19症例かつ吸入薬に慣れていない患者に対する治療であるので,実際のところ治療薬を適切に吸入できていない可能性がありうる。COVID-19症例や発熱症例に対面で時間をかけて吸入指導を行うことはおそらく非現実的なので,使用は紙媒体やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に限られることになるであろう。そして,吸入ステロイドがCOVID-19の治療薬として承認されたとしても,その適正使用に関しては慎重に行うべきである。前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も,一部メディアで大々的に取り上げられたために,病院や地域の調剤薬局で,シクレソニドの需要に対応できなくなったことがある。以前から喘息の治療でシクレソニドを使用していた患者に処方ができないケースが散見され,多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。

COVID-19の治療選択肢が増えることは喜ばしいことではあるが,吸入ステロイドを本来必要としている気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことだけは,絶対に避けなければいけない。

4 まとめ

本稿では,COVID-19の一般的な薬物治療から抗炎症作用を目的としたステロイド治療まで,今までのエビデンスをふまえて,まとめさせて頂いた。酸素投与が必要なCOVID-19症例に対してステロイド治療は重要な選択肢となりうるが,そうでない症例に関しては逆効果になることもありうる。当然のことであるが,COVID-19というだけで機械的に治療法を選択するのではなく,ステロイドが必要な症例の選択,投与開始日や投与期間,副作用の管理,その他のCOVID-19治療薬の選択など,症例ごとに繊細かつ十分に検討されるべきと考える。

ステロイドによる治療はCOVID-19の治療選択肢のうちのひとつであるが,このようなエビデンスの積み重ねで,COVID-19での重症化や死亡が1人でも抑えられることを現場の臨床医として切に願っている。

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