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春3-06 飲み過ぎ

登録日:
2018-08-30
最終更新日:
2018-10-12

➡泥酔患者の診療は,実はハイレベル。「ただの飲み過ぎ」の裏に隠れている重大疾患・重傷外傷を決して見逃さないように。
➡山本のABC+ABCDEFGアプローチ(エタノールバージョン) (後述表1)で診療の漏れをなくそう!特にG(gentleness)が大切。



「飲み過ぎ」ているのは,お酒(エタノール)だけではないことがある。毒物,薬物,他のアルコール(メタノールやエチレングリコ-ルなど)の同時摂取がないかも注意すること。
小児や低栄養患者では低血糖に注意。
血清エタノール濃度と症状の間に厳密な相関はない。
エタノール中毒単独では,胃洗浄や活性炭の適応はない。
ウェルニッケ脳症を疑うときはチアミンを早めに投与する(必ずしもブドウ糖投与に先行させる必要はない)。
自分の施設での暴言,暴力,トラブルへの対応方法を確認しておく。



飲み会は「忘年会シーズン」などという言葉があるように,新年会,歓迎会,送別会,暑気払い,冠婚葬祭などなど,ある意味では季節性がある(通年性の場合もあるが)。春といえばお花見(図1)と歓迎会のシーズンで,飲み会は重なるもの。今回は春の救急疾患として取り上げた。決して「季節の救急」へこじつけたわけではない(多分……)。


お酒の“酔っ払う”成分は,数あるアルコールの中でもエタノール(エチルアルコール)で,消毒薬としてもよく使われている。春3-09「メタノール中毒」(メチルアルコール)中毒でも出てくるため,ここではあえてアルコール中毒とは言わずにエタノール中毒として区別している。エタノール中毒というと聞こえはよいが,つまりは飲み過ぎのこと。
実はエタノール中毒のことはあまり書きたくない。救急外来での良い思い出があまりないからだ。
救急診療的には,「ただの飲み過ぎと思っていたら,脳腫瘍だった!」,「ただの飲み過ぎと思っていたら,頸椎損傷を伴っていた!」のように,「ただの飲み過ぎと思っていたら……!」で続く外傷・疾患・ピットフォールが多数存在することが重要だ。経験のある救急医や看護師であればあるほど,こうした例は数え上げればきりがないだろう。
外傷も病気もなさそうで,「今度こそただの飲み過ぎと思っていた」のに,別のアルコール(メタノールやエチレングリコールなど)も飲んでいたり,自殺目的で過量服薬をしていたということもある。
もちろん「ただの飲み過ぎと思っていたら,本当にただの飲み過ぎだった!」という場合もある。残念なことに「本当にただの飲み過ぎ」だったとしても,それはそれで不幸な転帰が待っていることが少なくない。毎年急性エタノール中毒で命を落としている人がいるのである。
医療スタッフにとっても,暴力を振るわれたり,暴言を吐かれたり,暴言だけでなく吐物を吐かれたり……。これもこういう事例は枚挙に暇がない。泥酔者はたちが悪く,自業自得であることが多い。そして週末の夜間のように,ERが忙しい日に限って受診することが多い。
ところで,お仕置きと称してショックでもないのに太い点滴ルート(痛い!)を確保したり,不必要な侵襲処置(胃管挿入,尿道カテーテル挿入など)をしたりすることがあると聞いたことがある。もちろん必要ならしてもよいが,もし医学的な適応がないのであれば,これは絶対にしてはならないことだと思う。確かに多くの泥酔患者は自業自得で,救急隊や周りに迷惑をかけて困ったものだというその気持ちはわかるが,それに対して「お仕置き」というのは,「医療行為」ではなく「傷害」につながりかねない。あなたはいったい何様のつもりかと申したい。
泥酔患者の診療は実はハイレベルだ。医療者は,「疲れと眠気と戦いながら,たちの悪い泥酔者を心から寛容し,診療で押さえるところは押さえておく」というプロとしての高等テクニックが要求されるのである。



診察・症状

症状は皆さんのご想像の通りである。軽度から中等度のエタノール中毒では,皆さんよくご存じのあんな感じになる(意識障害,脱水,嘔気,嘔吐など)。成人の場合,軽度のエタノール中毒単独であれば,命に関わることはまずない。
中等度程度でも注意したほうがよいのは,「意識障害+嘔吐→窒息」,「脱水→低血圧・頻脈」,「意識障害+舌根沈下→呼吸不全」だろう。
低血糖も忘れてはならない。これは糖新生が阻害されることで起こる。しかし,低血糖に注意するということは有名だが,言われているほど低血糖は起こさない(小児や低栄養例は除く)。成人例だと1~4%程度という報告もある1)
また,代謝性アシドーシスを認めることがあり,知らないと血ガスの結果を見てギョッとする。
重度の飲み過ぎになるとちょっと話が変わる。重度のエタノール中毒では意識障害も高度になり,散瞳したり,痛み刺激で除脳硬直を認めたりすることもある。さらに重ければ,当然死亡例もある。
個人的に一番大切だと思うのは,エタノール中毒そのものよりも,合併疾患や外傷がないかどうか,常にアンテナを張ることだ。飲み過ぎの人は気が大きくなっているし,エタノールによる麻酔作用もある。そのため,患者本人も医療者も合併疾患や外傷を過小評価する傾向にあるからだ。

血中濃度

血清エタノール濃度を参考にすることがあるかもしれない。教科書で血清エタノール濃度と症状の相関を示した表を見たことがある人もいると思う。100~150mg/dLだと歩行困難,150~250mg/dLで立位保持不可,300mg/dL以上で昏睡などと書かれている2)。しかし,血清エタノール濃度と症状の間に,厳密な相関はないので気をつけたほうがよい1)
この傾向は,特に慢性の飲酒者で高く出る。一般に300mg/dL以上では昏睡に陥ると言われているが,慢性飲酒者では500mg/dLでも目覚めていることがある3)
100mg/dL以下で昏睡であることは稀であること3)(100mg/dL以下で昏睡であれば,他の原因検索が必須),数値がゼロを取りうることは覚えておくと役立つと思う。
血清エタノール濃度は,「mg/dL」で示される場合と「mmol/L」で示される場合があるので,単位にも注意しよう。



治 療

基本的に支持療法。「急性エタノール中毒」そのものに対する特別な治療はない。
軽度であればそのまま経過観察。中等度以上であれば,気道と呼吸,全身状態に注意する。そして,脱水があれば補液,低血糖があればブドウ糖投与,ウェルニッケ脳症のリスクがあればチアミン投与,を考える。
重度のエタノール中毒では支持療法もより慎重に行わなければならず,気道や呼吸が怪しければ人工呼吸管理を検討する。
エタノールは速やかに吸収されるので,胃洗浄の適応にはならない3)
アルコール類は活性炭の適応にもならない。
ただし,同時に他の服毒がある場合は,その薬物・毒物に対して適応になることはある。
脱水補正の意味での補液はよいが,血中エタノール濃度を減らすために多量の補液をすることは勧められない。泥酔者の診療は人も時間も場所も取られるため,早く血中濃度を下げ,早く退院してもらうための治療がないか,いろいろと検討されている(ナロキソン,フルマゼニル,補液など)。しかし,いずれの方法もエタノールの代謝を早めることはなく,一番有効なのは時間,つまり酔いが醒めるのをただ待つ,ということだった1)
さて,エタノール中毒をただの酔っ払いだと思って対応が雑にならないようにしたいところである。表1の語呂合わせを使って診療を行うことをお勧めしたい。
最初のABCは救命のABC。すべての基本だ。ABCDEFGアプローチ(エタノールバージョン)の2つめのBは,ビタミンのBと覚えてもよい(ビタミンのスペルはbitaminではなくvitaminだが,しょせん語呂合わせなので,覚えやすいほうでよい)。Eの環境は,保温,ベッドからの転落防止,モニタリング,監視の目,暴力・暴言に対する整備作りなど。個人的に一番大切だと思っているのは「G」のgentleness。どんな人にもgentleに接することができるようになりたい。

チアミン(ビタミンB1)投与について

ウェルニッケ脳症を疑う時はチアミンを早めに投与する。皆さんの中には,「チアミン欠乏+低血糖がある際は,“ブドウ糖→チアミン”の順ではなく,必ず“チアミン→ブドウ糖”の順で投与するように。先にブドウ糖を入れてしまうと脳症を起こしてしまうよ」と言われたことがある人もいるかもしれない。
チアミンはブドウ糖の代謝に関わる大切な補酵素である。チアミンが少ない状態で基質であるブドウ糖を投与してしまうと,体内にわずかに残っていたチアミンが枯渇してしまい,ウェルニッケ脳症を発症しやすくしてしまうという考えによるものだ。
しかし,これは救急外来ではあまり気にしなくてよい。動物ではともかく,ヒトでははっきりと証明されていないのである1)
確かにチアミンの補充は早めにしたほうがよいのだが,チアミン投与を待つためにブドウ糖投与を遅らせるほどではない。それよりも低血糖の補正を早めにするのがよい。そしてその後で忘れずにチアミンを投与すればよい。
チアミンの投与目安量は100mgである2)。既にウェルニッケ脳症を起こしている時には1回500mgを1日3回,経静脈的に投与する。



小児の場合

小児の場合は成人と少し勝手が違ってくる。
小児ではピーク時の血中エタノール濃度が50mg/dL以上かどうかが1つのポイントになる。この濃度を超えるエタノール中毒では低血糖が起こりやすいためである4)
アルコールの濃度と摂取量,患児の体重が正確にわかれば,血中エタノール濃度は推定できる(図24)。0.8g/mLはエタノールの比重,0.6はエタノールの分布容積である。


いわゆるtoddler(ハイハイする頃)の一口は5mL程度と言われており,参考になる4)
アルコール中毒だけでなく他の中毒の可能性はないか,低血糖や頭部外傷など他の意識障害音原因はないか,などの検索が必要なのは成人と同様。
小児では虐待がないか,思春期であれば自殺目的ではないか,などのケアも考える。
小児の治療も主には支持療法。低血糖,嘔吐と多尿による脱水,低体温などに気をつけながら呼吸,循環管理をする。
エタノール中毒だけであれば,催吐や胃洗浄の適応はない。活性炭も無効。
血中エタノール濃度が50mg/dLを超える量のアルコールを飲んだと思われる場合は血糖値を早期に確認2)。来院後6時間は血糖の再検を検討する。
来院後6時間経っても無症状であれば,帰宅させてもよい。

帰宅時の注意と泥酔者への対応

帰宅時は,安全に帰宅できそうな状態かを自分ひとりではなく複数名で確認する。
酔いが強い間はひとりにしないこと。帰宅時も同様。帰宅途中で飲酒運転や喧嘩など危険行動をしたり,帰宅してから嘔吐して窒息してしまってはまずい。誰かの監視が必要である。
患者に付き添っている方に監視をお願いすることがあると思うが,これも気をつけたほうがよい。その人もいっしょに酔っ払っていることが少なくなく,ベッドサイドで一緒に寝ていたり,逆に大騒ぎをしたり,帰宅時の注意事項を覚えていないことなどがあるからだ。
酔いが醒めるまでは帰宅させないのがよいのだが,完全に醒めるまでには時間がかかる。また酔いが醒めてくると患者は早く帰りたがり,それを制すると(酔っ払っているので)暴力・暴言を振るわれることがある。本当にハイレベルの対応が要求されるのだ。
患者の同意が得られない場合の対応方法や,暴力を振るわれたときの対応など救急外来で起こりうるトラブル対策について,普段から各施設で話し合い,確認しておくとよい。


文献
1) Allison MG, et al:Alcoholic metabolic emergencies. Emerg Med Clin North Am. 2014;32(2):293-301.
2) Cowan E, et al:Ethanol intoxication in adults. Post TW(Ed), UpToDate, Waltham, MA:UpToDate Inc. (Accessed on November 29, 2017)
3) 日本医科大学付属多摩永山病院薬剤科・救命救急センター:エタノール. 急性中毒標準診療ガイド. 日本中毒学会, 編. じほう, 2008, p340-1.
4) Baum CR:Ethanol intoxication in children:Clinical features, evaluation, and management. Post TW(Ed), UpToDate, Waltham, MA:UpToDate Inc. (Accessed on November 29, 2017)


参考文献
• 厚生労働省:健康日本21 アルコール.
[http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b5.html]

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