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第3回:R波の増高不良/Poor R-wave progression

登録日:
2022-05-06
最終更新日:
2023-03-17

執筆:Dr.ヒロ|杉山裕章

RV3≦1mm:V3のR波高1mm以下

「R波の増高不良」(Poor R-wave progression)という所見は,言葉で表現してしまうと,「RV3≦1mm」のようにシンプルでやや味気のないものに見えます。ただ,字面通りにV3のr/R波「だけ」を見れば良いというものではありません

「R波の増高」プロセス(過程)は,胸部誘導の全体を通して見られ,V1→V2→V3→…の順にQRS波の陽性成分が段々と高くなり,V4ないしV5あたりでピークを迎える様子を見届けて下さい(図2)。

その過程で,「スタートダッシュ」に失敗して,V3「なのに」まだr波高が1mmにも育っていないおかしな状態が「R波の増高不良」だと考えるのが本質的な理解になります。

「R波の増高不良」を見たときに考えるべき病態のうち,最も重要なものは「前壁(中隔)心筋梗塞」でしょう。(V1)V2~V4で「ST上昇」を伴う場合は急性のこともありますが,普通は陳旧性梗塞をどう鑑別するかがポイントになります。

その場合,「R波の増高不良」は前胸部誘導での「異常Q波」の“なり損ない”と捉えるのが良く,実際,R波が1mmに満たないときに“みなしQ波”とされていた時代もあります1)。これは理解しやすいですよね。

ただし,①「左室(または右室)肥大」,②「完全左脚ブロック」,③「WPW症候群」などの病態でも見られる2)所見であることを知っておくべきです。これらは他の所見も参照すれば容易に区別できますし,①〜③の心電図なら,わざわざ「R波の増高不良」という所見を併記する必要性は低いように思います(少なくともボクはしません)。

「R波の増高不良」が認められるとき,「時計回転」も一緒に見られることがしばしばです。通常V5ではR波の高さがS波の深さよりも断然大きくなりますが(R≫S),V5の段階でも「R<S」のような場合に診断される心電図所見です。

「R波の増高不良」を呈する集団のうち実際の心筋梗塞例は10%未満というのが“真実”です(「正常亜型」として本所見を呈する例があるため)。「精査」と称し,誰彼構わず心エコーや運動負荷心電図,冠動脈CTなど検査をしている医師もいますが…。病歴や症状なども加味して「考える」べきですね。図1の症例も健常な女性です。

本当に「前壁(中隔)心筋梗塞」かどうかを見抜く方法は,「V1~V3(V4でST上昇や陰性T波の随伴」や「ⅠでR波高5mm未満」などが知られていますが,信用性は100%ではありません。

実臨床では,「電極の付け間違い」でも“見せかけ”の「R波の増高不良」を生じることがあり,注意を要します。胸部電極の順番や肋間位置の誤り等が代表的で,「RV3≦1mm」以外に「V1>V2<V3」や「V1<V2>V3」など“徐々伸び”パターンが崩れたり,移行帯が変化したりすることが多いです。

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*時にⅠ,aVLにおける陰性T波なども参考にする。

【文献】

1)杉山裕章:心電図の読み“型”教えます!Season 3. 中外医学社, 2021, p56-64.

2)Zema MJ, et al:Arch Intern Med. 1982; 142(6):1145-8.

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