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CASE13:急性の胃腸症状で入院後に意識変容をきたした20歳,女性

登録日:
2018-04-25
最終更新日:
2018-12-19

難易度:★★★☆☆

司 会:今日は総合診療部の症例です。よろしくお願いします。

担当医:下腹部痛と嘔吐のため,夜間搬送された女性です(スライド1)。初期診療は救急科でなされまして,朝になって総合診療部の病棟で引き継いだという経緯です。


会 場:月経と言っているのは不正出血でなく,正常周期に一致していたのでしょうか。

担当医:普段の周期に時期的にも合っていたそうです。ほかに質問がなければ,搬送状況と,所見の時系列を示します(スライド2)。


腹痛とバイタルサインの悪化

会 場:この42回という異常な呼吸数は,痛みによる過呼吸ですか。

担当医:40回/分を超えたのは一過性でして,会話もできて,静脈血pHですがアルカローシスはなく,頻呼吸と頻脈は反応性だったようです。搬送前の血圧・心拍は,正常だったためか記載がありませんが,呼吸数をみれば当院到着までの1時間でバイタルは悪化しています。
採血結果に移ります(スライド3)。乳酸値の軽度上昇以外は異常に乏しく,妊娠反応も陰性でした。腹痛は強く,造影CTも撮られているので供覧します(スライド4)。



総診指導医:ここまでで何か質問,ご意見ありますか。

司 会:スライド3の血液検査,よくみる急性胃腸炎のデータではないですね……。CRP上昇には時間がかかるとしても,急性胃腸炎なら大体,脱水で修飾された白血球増加をみると思います。嘔吐は頻繁でなかったのか,今の話では下痢もなかったですね。

総診指導医:あっという間に病態が進んでいる感じですね。夜9時に急な腹痛が起きて……,下痢はこのあとで出てきましたが,少量でした。

担当医:腹痛は救急外来で非常に強く,CTでは広範囲な腸管浮腫がみられます。

総診指導医:バイタル不安定な腹痛で,すぐ造影CTという流れは自然ですね。スライドでは見えにくいのですが,腸管周囲に脂肪織の毛羽立ちがあり,急激な腸管炎症が示唆されます。局在性やフリーエアはなく,リンパ節腫大もありません。

担当医:救急外来では,初め腹痛と嘔吐,そのうち水様下痢が2回あったそうです。補液が全開で開始され,腹痛は徐々に緩和しましたが,血圧が低下しはじめました。来院から2時間で,血圧143/62→100/58mmHg,心拍115→120/分となりました。この間ずっと補液はほぼ全開です。6時間後の採血でも来院時とほとんど変わらないデータでした。
臨床プロブレムが出そろったところで,研修医の皆さんの判断は?

総診指導医:救急外来で診ていると想像して,消化器科コンサルトという本音は別にして,自分の考えを言ってみて下さい。朝になって引き取った私たちの気持ちを想像してもらってもいいです。

研修医A:ショックバイタルです……。血液培養は採ってますよね。

担当医:もちろんです。

研修医A:やはり感染性の腸炎を考えます。

研修医B:虫垂炎もありかと思いますが,痛みは移動したでしょうか。

担当医:徐々に右下腹部に移動していたようです。皆がやっぱり右下腹部を気にして触るので,それで痛いような印象もありました。虫垂はCT計測で7mmでした。

総診指導医:私の診察では部位に再現性がないな,という感じでした。どこを触っても痛いような,救急科の先生は「下腹部全体」と書いてましたね。

研修医C:虫垂炎の反応にしては腸管浮腫が広範すぎませんか。

担当医:とにかく全体が痛いので,私たちの初期判断も感染性腸炎でした。

研修医D:尿検で膿尿があるから,腎盂炎から始まったと考えてもよいですね。

総診指導医:そうですね……。ただCTで腎の造影不良や腎周囲の混濁はなかったですね。

入院後の意識障害

担当医:救急から引き継ぐときは腹痛が緩和して,本人は帰りたがって私たちもかなり困りましたが,やっと入院を説得しました。病棟でバイタルがまた悪化し,午前11時で血圧78/40mmHg,心拍124/分,呼吸数22/分,SpO2 95%,体温38.0℃でした。抗菌薬はセフメタゾールを続け,補液200mL/時を保ちましたが,翌朝(Day 2)のバイタルも不良,血圧92/48mmHg,心拍110/分,呼吸数25/分,SpO2 99%,体温39.9℃でした。Day 2の朝回診で,付き添いの母親から「夜中にティッシュをくれと言ってコーヒーを指さしたり,点滴を抜こうとしたりする」ことを聴取しました。

総診指導医:これは注目すべきですよね,高齢者なら変でないかもしれませんが。

担当医:実際,痛みの推移を聞くと滞りなく答える一方で,名前を答えるのに時間がかかり,日付を聞いても答えがなく,話しかけないと眼を閉じてしまい,GCS:E3V4M6と判断しました。ほかの神経所見は異常ありませんでした。

総診指導医:さて,急性腸炎とみていた若年者に意識障害が起きました。タイトルに挙げた病状変化があったわけですが,ここでの判断とか方針はいかがですか。

会場複数:脳MRI……,髄液検査……,敗血症性ショックの意識障害でもよいと思います。

司 会:さっきの話で,6時間後の採血データが来院時と変わらなかったのでしょう。敗血症や,菌血症の脳波及だったら,CRP陰性のままというのが変ですね。

総診指導医:ウイルス性で髄膜炎とか脳炎に進んだのでしょうか。感染症でないかもしれないという意見もありますか。

会 場:若い女性だし,SLEも考えます。

司 会:CRP陰性の高熱と言えば,頭蓋内に限局した感染症かSLEが候補ですが,今は脳限局でないですからね。ループス腸炎+神経精神SLEなら,辻褄は合います。

総診指導医:common diseaseでない意見が出ましたが,私たちも腸管,骨盤内の浮腫が著しい割に下痢は少量2回だけというミスマッチが気になりました。あとは基本に忠実に,虫垂炎や憩室炎のような局在する炎症ではなさそうだという印象とか,バイタル不安定に注目するのが大事だと思います。あとで振り返ってのコメントですが。

担当医:ここまでがDay 2の朝9時頃の話ですが,すぐあとに細菌検査室から電話があって,グラム陽性球菌(gram positive cocci:GPC)-chainがボトル4/4で生えたそうです。同時に血算・生化学も出て,先ほどからCRPの話が出ていましたが,CRP上昇を含めて,このようなデータ推移がありました(スライド5)。

司 会:あ! 6時間後のデータ,変わりなしでなくてCRPは上がってましたね。

担当医:すみません,1.76mg/dLでした。ほとんど変わらずと言いましたが。

司 会:そうでしょう,いや,プレゼンが悪いのでなく,先生は感染と思っているから弱陽性を強調しなくても当然ですね。細菌感染症なら,発症直後にCRP 0でも数時間で上昇しはじめるから,このデータ(6時間後)で納得して迷わず抗菌薬続行です。0.18→1.76mg/dLは10倍です。陰性のままなら特殊病態が鑑別に入ってくるから,答えが未知のとき,CRPの動きはクリティカルです。

【確定診断】連鎖球菌性毒素性ショック症候群(STSS)

担当医:そうでした。データは急性期DICスコア7点,CK,クレアチニン上昇などがありました。GPC-chainの菌血症,ベリジーン・システム(先進医療検査)によりA群β溶連菌と判明しました。
発熱,意識障害,ショックバイタルということで連鎖球菌性毒素性ショック症候群(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)と診断しました。
治療の続きです。同日朝10時から抗菌薬を変更しました。その後,バイタルは安定して,意識清明となっております。菌確定後は感受性に基づいて治療しました(スライド6)。
では,考察になります。スライド7に要約して示します。
最後に,take home messageです。バイタルサインが不安定な「急性胃腸炎様の症状」に注意しましょう。

司 会:急性胃腸炎は,輸液で対処できる日常疾患ですが,本例は似て非なるというか,似ていない点がいろいろありましたね。溶連菌も普遍的に出合う菌ですが,いろいろな型と危険な病態をよく説明して頂き,とても教育的でした。ありがとうございます。


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