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11. 血算

登録日:
2019-04-15
最終更新日:
2019-04-19
執筆:浅野倫代(東京医科大学病院血液内科病院助教)

このコンテンツを読んで ワカルこと・デキルこと

貧血をみたら、網赤血球絶対数に着目デキル
 白血球分画を丁寧に見ることがデキル
 MDS(あるいは、赤白血球)と診断する前に、巨赤芽球性貧血を見逃さない

症例:20歳男性

 主訴:全身倦怠感
 現病歴:生来健康である。1カ月前より倦怠感、動悸が出現した。様子をみていたが改善がないため、近医を受診したところ、血液検査にて貧血を指摘され、救急外来を受診した

身体所見

 身長169cm、体重62kg
 バイタルサイン:意識清明、体温37.2℃、血圧130/83mmHg、脈拍112/分整、呼吸数20/分、SpO299%(room air)
 頭頸部:眼瞼結膜は蒼白、眼球結膜に黄染なし、口腔粘膜障害なし、咽頭発赤なし、体表リンパ節は触知せず
 肺野:肺音は清でラ音は聴取せず、心音は純、LevineⅡ/Ⅵの収縮期駆出性雑音を聴取
 腹部:平坦・軟、腸管蠕動音正常、圧痛なし、反跳痛なし、肝脾腫なし
 四肢:下腿浮腫なし
 神経学的所見:脳神経正常、運動正常、感覚正常、腱反射正常、病的反射なし

 緊急検査結果


緊急検査結果で注意するポイント

 貧血と血小板減少が気になる。この時点では2系統の血球減少、大球性貧血からの鑑別をまず考えるところであるが、ここで血液内科を紹介受診した
 ついつい異常値に目がいってしまうが、一見正常値の白血球数に注目してみよう。分画を平日に再検査してみて初めて異常がわかることもある
 緊急検査では幼若血球の評価ができないため、一見、白血球分画は正常に見えてしまうことがある
 また、網赤血球数、赤血球容積粒度分布幅(red blood cell distribution width:RDW)変動係数(coefficient of variation:CV)も緊急検査では結果が出ない施設が多い

 検査結果

 

まずは、網赤血球数に注目してみよう

 網赤血球とは、赤芽球が脱核したばかりの赤血球で、24〜48時間の間に通常の成熟赤血球になる。赤血球の成熟過程は次の通り



 赤血球の寿命は120日なので、正常な状態(失われる赤血球≒新しく産生される赤血球)では赤血球の約1%程度が網赤血球ということになる
 赤血球に対する百分率(%:パーセント)あるいは千分率(‰:パーミル)で表すことが多い
 しかし、網赤血球は割合(%や‰)ではなく、絶対数での評価が重要!
 網赤血球絶対数=全赤血球数×網赤血球割合(%あるいは‰)
 網赤血球の正常値(成人)は、
 網赤血球割合:0.5〜1.5%(5〜15‰)
 網赤血球絶対数:2.5〜7.5×104/μL
 本症例では、網赤血球絶対数を計算すると、次の通り正常範囲内であった
 網赤血球絶対数=(赤血球数×網状赤血球割合×1/1000)=1.57×106(/μL)×39.8(‰)×1/1000=6.2×104/μL
 骨髄が正常に機能していれば、貧血状態では足りない分を補うために、エリスロポエチンが上昇し赤血球の産生量が増加する。つまり、網赤血球絶対数は増加する。貧血があるのにそれに見合った網赤血球増加がない状態は、骨髄が正常に機能していないことを意味する

網赤血球が増加しない貧血の鑑別

 出血、溶血の場合は網赤血球が増加するはず
 →網赤血球の増加がないので、出血や溶血は除外できる



 造血に必要な材料(鉄、ビタミンB12、葉酸)の欠乏およびエリスロポエチン不足の有無をチェック
 その次に骨髄の異常を考えよう

次に、幼若な白血球に注目しよう

 本症例では、骨髄芽球や前骨髄球のような非常に幼弱な血球までが出現している
 白血病裂孔(幼若な白血病細胞と残存する成熟細胞のみが見られ、中間の成熟細胞が見られない現象)があるか?
 ・いわゆる、急性白血病を疑う白血病裂孔はない
 ・慢性骨髄性白血病に特徴的な好塩基球の出現もない
 左方移動か?
 ・感染症でも白血球分画の左方移動がみられるが、左方移動では桿状核球が15%以上とされ、さらに末梢血に出現するのは骨髄球までが一般的である。本症例は左方移動とは言えない
 白血病や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)を評価するためには、骨髄検査は避けて通れない

骨髄像

 有核細胞数28万500/μL、巨核球数87.50/μL、顆粒球系(M):赤芽球系(E)=1:3.7
 過形成骨髄で赤芽球系の増加が目立つ。血液検査では貧血なので、無効造血と言える
 顆粒球系には過分葉好中球、成熟好中球の巨大化があり、赤芽球系は巨赤芽球様変化を認め、多核の赤血球や核遺残もみられた。巨核球は微小、単核、分離核が散見され、3系統とも異形成を認める骨髄であった
 骨髄芽球は0.4%で、MDS with multilineage dysplasia(MDS-MLD)相当の骨髄と判断した。鉄染色では、環状鉄芽球は認めなかった

ここで落とし穴?

 網赤血球の上昇なし、骨髄検査ではMDSで矛盾なし
 この年齢でMDSだと、長期予後も視野に治療戦略を考えなければならない。でもちょっと待って、何か…
 同じような骨髄像を呈する疾患で1つ鑑別しなければならない疾患がある
 生来健康の若年男性のため、失念していたが、まさか…。そう、巨赤芽球性貧血である。入院ですぐに骨髄を評価したため、MDSと結論づけそうになったが、MDSと診断する前に、必ずビタミンB12、葉酸を確認しよう
 骨髄の染色体検査(MDSでは典型的な染色体異常がみられることあり)、過ヨウ素酸シッフ(periodic acid Schiff:PAS)染色の結果(赤芽球のPAS染色でMDSは陽性)までみれば、さらに診断は確定的であるが、結果の到着に日数を要することが多い

追加検査結果


最終診断・治療

巨赤芽球性貧血

 MDS-MLDと診断しかけたが、ビタミンB12の結果が到着し、巨赤芽球性貧血と判断した
 一般的には、普通に食事をしていればビタミンB12が不足するということはまずない。ビタミンB12の備蓄量は約5mgで数年分の蓄えがあり、胃全摘を行って何もしなくても、数年間は症状が出ないとされている
 本症例は、上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎はなく、抗胃壁細胞抗体、抗内因子抗体ともに陰性であった。一人暮らしを始めてから某カップ麺(ビタミンB12含有ゼロ)など炭水化物中心の食事を送り続け、このような結果になってしまった。ビタミンB12の筋肉内注射にて血算は正常化した

1カ月治療後の検査結果


血液検査でほかに何か手がかりは?

 貧血の鑑別に、RDWがしばしば用いられる
 自動血球計数装置で決定される指標で、貧血の分類に有用でRDW標準偏差(standard deviation:SD)とRDW-CVがある。RDW-SDは赤血球の大小不同の定量的指標(基準値は38.8~50.0 fl)、RDW-CVは小球性貧血の指標(基準値11.5~13.8%)として用いられる
 平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV)とRDWとの組み合わせによる貧血の鑑別は、小球性貧血における鉄欠乏性貧血と慢性疾患での貧血の鑑別、大球性貧血ではMDSと巨赤芽球性貧血の鑑別に役立つ

MCVとRDWによる貧血の鑑別

       

クリニカル・パールズ(Take Home Message)

 本症例では、網赤血球、MCV、RDWを総合的に判断することで、結果的にはビタミンB12欠乏あるいは葉酸欠乏までたどり着くことができ、それぞれを採血で測定することによって、診断を確定することができる
 もちろん、病態が重なり合い、単純に血算で答えが出ないことも多々あるが、注意して血算をみるクセをつけるようにしよう
 巨赤芽球性貧血では通常は、骨髄穿刺はしない!MDSを疑う場合は骨髄穿刺の前にビタミンB12、葉酸の値を調べよう。本症例では、骨髄検査が実施されたが、もちろん染色体は正常核型、赤芽球はPAS染色陰性であった

【文献】

1) 平野正美, 監修:ビジュアル臨床血液形態学 改訂第3版. 南江堂, 2012, p14-5.

2) 前田宏明, 他:衛検. 1985;34(11):1505-8.

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