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第115回:学会レポート─2020年米国糖尿病学会(ADA)

登録日:
2020-07-17
最終更新日:
2020-07-17

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

6月12~16日,新型コロナウイルス流行のため,Web上のみで開催された米国糖尿病学会から,トピックスを取り上げた。

TOPIC 1
SGLT2阻害薬の心血管系イベント抑制作用はプラセボと有意差なし:VERTIS-CV試験

本年度ADAで,最も注目されたのはこの試験だろう。心血管系(CV)2次予防の2型糖尿病例において,SGLT2阻害薬がプラセボを上回るCVイベント抑制作用を示さ なかったランダム化試験“VERTIS-CV”である。 Christopher P. Cannon氏(ハーバード大学,米国)らが報告した。

VERTIS試験の対象は,冠動脈,脳血管,末梢動脈の少なくともいずれかにアテローム動脈性疾患を認める2型糖尿病患者8246例である。平均年齢は64歳,9割近くが白人で,糖尿病罹患期間平均値は13年間,平均HbA1cは8.2%だった。指定討論者のMack Cooper氏(モナシュ大学,豪)はこの患者群を「心不全例が若干多い(約25%)のを除けばEMPA-REG Outcome試験に近い」と評していた。

これら8246例は,SGLT2阻害薬の標準用量群(エルツグリフロジン5mg/日)と高用量群(同15mg/日),あるいはプラセボ群にランダム化され,二重盲検下で平均3.5年間追跡された。

その結果,1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」の発生率は,SGLT2阻害薬群(標準・高用量併合),プラセボ群ともに11.9%だった(非劣性,P<0.001)。またSGLT2阻害薬群を標準用量群と高用量群に分けて比較しても,やはりプラセボ群との間に有意差は認められなかった。先述のCooper氏はこのカプランマイヤー曲線に関し,「標準用量群と高用量群が何回もクロスしている。これはEMPA-REGでは認められなかった事態だ」と指摘していた。

さらに,1次評価項目を「CV死亡」,「非致死的心筋梗塞」,「非致死的脳卒中」に分けて比較しても,SGLT2阻害薬群とプラセボ群間には有意差はなかった。SGLT2阻害薬群におけるハザード比(HR)〔95%信頼区間(CI)〕は順に,0.92(0.77-1.11),1.0(0.86-1.27),1.0(0.76-1.32)である。なお,SGLT2阻害薬群の血圧は,試験開始52週時点でプラセボ群に比べ,標準用量群で2.6mmHg,高用量群で3.2mmHg,有意に低値であり,その差は試験終了まで維持されていた。同様に,体重も52週時点で,SGLT2阻害薬群はいずれも,プラセボ群に比べ2kg超の低値であり,この差も試験終了まで維持された。にもかかわらず,HRは上記の数字であった。

同様に,2次評価項目である「CV死亡・心不全入院」も,SGLT2阻害薬群におけるHRは0.88(0.75-1.03)と有意差には至らなかった。ただし「心不全入院」のみで比較すれば,SGLT2阻害薬群で有意なリスク低下が認められた(HR:0.70,0.54-0.90,2.5%vs. 3.6%)。

2次評価項目とされた「腎関連評価項目」(腎死・腎代替療法導入・クレアチニン倍加)にも,有意差はなかった(SGLT2阻害薬群HR:0.81,0.63-1.04)。

本試験はMerck & CoとPfizer Incから資金提供を受け,実施された。

TOPIC 2
GLP-1アナログとSGLT2阻害薬の心血管系イベント抑制作用に差?:傾向スコアマッチ比較

GLP-1アナログとSGLT2阻害薬はいずれもランダム化試験(RCT)で,2型糖尿病例においてプラセボを上回るCVイベント抑制作用が認められている。では,これら2剤のCVイベント抑制作用を比較したらどうなるだろう。直接比較を行ったRCTはない。そこで本年のADAでは,米国保険データを用いた傾向スコアマッチ比較がInsiya Poonawalla氏(Humana Healthcare Research社,米国)により報告された。

Poonawalla氏が解析したのは,同社が構築した公・私的医療保険加入者1300万名のデータベース内の,2015年から17年に,GLP-1アナログかSGLT2阻害薬のいずれかを新たに開始し,1年間以上服用していた1万2945例中,傾向スコアでマッチさせた1万1014例である。平均年齢は65歳,60%強がアテローム性動脈硬化疾患(ASCVD)1次予防例だった。またGLP-1アナログは,6割弱が1日1回使用型だった。

その結果,「心筋梗塞」発症率は両剤とも8.1%,「脳卒中」も,GLP-1アナログ群で16.1%となり,SGLT2阻害薬群の15.6%と有意差はなかった(観察期間非提示)。死亡も同様だった(5.2% vs. 4.8%)。ただし,「心不全」はGLP-1アナログ群の18.8%に対し,SGLT2阻害薬群では16.3%の有意低値となっていた(P<0.001)。

一方,本研究の1次評価項目として設定された「心筋梗塞・脳卒中・全死亡」,2次評価項目である「心不全・全死亡」の発生リスクを,ASCVD既往の有無で分けて比較してみたところ,いずれも両群間に有意なリスクの差は認められなかった。

なお,治療中断リスクは,GLP-1アナログで有意に高くなっていた(HR:1.15,95%CI:1.10-1.21)。

TOPIC 3
SGLT2阻害薬による腎保護作用のメイン機序は糸球体過剰濾過改善?:CREDENCE追加解析

昨年の国際腎臓学会(ISN)で報告されたランダム化試験“CREDENCE”では,2型糖尿病例に対する,SGLT2阻害薬による慢性腎臓病(CKD)増悪抑制作用が示された。すなわち,2次評価項目ではあるが,SGLT2阻害薬群における「末期腎不全・血清クレアチニン倍増・腎死」の対プラセボHRは0.66の有意低値だった(95%CI:0.53-0.81)1)

SGLT2阻害薬によるこのような腎保護作用はこれまで,「糸球体過剰濾過の改善」を介すると説明されるのが一般的だった。そのため,SGLT2阻害薬開始直後,推算糸球体濾過率(eGFR)は一過的に低下するが,それは糸球体過剰濾過改善のマーカーであり,したがってその後,eGFRは改善するというものである。事実,多くの臨床データもこの仮説を支持している。

しかし今回のADAで報告されたCREDENCE試験の後付け解析は,このような理解に疑問を投げかけるものとなった。Hiddo L. Heerspink氏(グローニンゲン大学,オランダ)が報告した。

CREDENCE試験の対象は,CKD合併の2型糖尿病4401例である。全例,忍容最大用量のレニン・アンジオテンシン系阻害薬を服用している。これらをSGLT2阻害薬カナグリフロジン100mg/日群とプラセボ群にランダム化の上,二重盲検法で観察した結果,SGLT2阻害薬群では「末期腎不全・血清クレアチニン倍増・腎/CV死亡」リスクが相対的に30%,有意に低下していた。

今回,Heerspink氏が報告したのは,試験開始後13週間のeGFR変化幅と,その後の腎転帰との関係である(112例欠損)。「著明低下」(10%超),「軽度低下」(0~10%),「上昇」の3群で比較した。SGLT2阻害薬群では,プラセボ群に比べ,「著明低下」例が多く(45% vs. 21%),「上昇」例は少なかった(27% vs. 49%,いずれも検定なし)。

目を引いたのは,これら3群のその後のeGFR低下幅である。SGLT2阻害薬服用例では,「著明低下」,「軽度低下」,「上昇」群のいずれにおいても,その後およそ40カ月にわたるeGFRの低下幅はいずれも約2.0mL/分/1.73m2で,群間に有意差を認めなかった。プラセボ服用例も同様で,当初のeGFRの変化幅にかかわらず,その後のeGFR低下幅はいずれの群も,およそ4.5mL/分/1.73m2で,群間差は認められなかった。

「腎関連重篤イベント」,「急性腎傷害」,「高カリウム血症」を比較しても,SGLT2阻害薬群,プラセボ群ともこれらリスクは,服用開始直後のeGFR変化に有意な影響を受けていなかった(諸因子補正後)。

なおHeerspink氏は本研究の限界の1つとして,同一個人内でeGFR測定値のばらつきが大きかった点を挙げ,「著明低下」,「軽度低下」,「上昇」分類が必ずしも正確ではなかった可能性を指摘していた。
本試験は,Janssen Research and Developmentから資金提供を受けて実施された。

TOPIC 4
心血管系高リスク2型糖尿病例に対するDPP- 4阻害薬とSU剤,再発イベントまで含めて解析しても有意差なし:CAROLINA追加解析

昨年の本学会で報告されたランダム化試験“CARO LINA”では,CV高リスクの2型糖尿病において,DPP-4阻害薬リナグリプチンはSU剤グリメピリドに比べ,重度低血糖と体重増加を抑制するも,「CV死・心筋梗塞(無症候性除く)・脳卒中」(1次評価項目)の発生率は有意減少には至らなかった(SU剤に対し非劣性)2)。しかしこの検討で評価されたのは,上記イベント「初発」のみである。そこで本年のADAでは,再発まで含めた全イベントを対象とした抑制作用を検討した結果が報告された。しかし初発イベントのみの解析と同様,やはり2群間に差は認められなかった。Nikokaus Marx氏(アーヘン大学病院,ドイツ)が報告した。

CAROLINAの対象は,HbA1c 6.5〜8.5%で,CV高リスクを認めた6033例である。2型糖尿病罹患期間は6.3年(中央値)と,比較的早期の患者が対象だった。これらがDPP-4阻害薬リナグリプチン5mg/日群とSU剤グリメピリド1~4mg/日群にランダム化され,二重盲検下で6.3年間(中央値)追跡された。

その結果,再発イベントまで含めても,DPP-4阻害薬群における1次評価項目HRは0.97(95%CI:0.82-1.15)で,有意差には至らなかった。また,再発イベントまで含めた結果,「初発のみ」に比べ発生数が最も増えたのは「全入院」(2548→5574,3026増)だったため,再発まで含めた「全入院」リスクを比較したが,DPP-4阻害薬群におけるHRは0.93(0.85-1.02)で,初発のみで比較した0.94(0.87-1.02)と変わらなかった。

「全CVイベント」(1053→1860へ増加)も同様で,再発まで含んだ場合のHRは1.00(0.85-1.17)で,初発のみの0.96(0.85-1.09)と同等だった。なお,「心不全入院・CV死」や「脳卒中」,「心筋梗塞」の増加数はいずれも,20~70程度のみだった。

本試験は,Boehringer Ingelheim社とEli Lilly社から資金提供を受けて行われた。

TOPIC 5
SGLT2阻害薬はHFrEF例の糖尿病発症を予防したのか?:DAPA-HF試験

昨年9月の欧州糖尿病学会で報告されたランダム化試験“DAPA-HF”では,収縮障害心不全(HFrEF)例に対して,SGLT2阻害薬による,生存率を含む転帰改善作用が示された3)。今回のADAでは,事前設定された探索的解析として,SGLT2阻害薬による2型糖尿病新規発症抑制作用が報告された。報告者であるSilvio E Inzucchi氏(イェール大学,米国)は,「SGLT2阻害薬に2型糖尿病発症予防作用あり」と結論したが,他のシンポジウムで示されたデータも含め,詳細を紹介したい。

DAPA-HF試験は,症候性HFrEF例の「心不全増悪・CV死亡」リスクに対するSGLT2阻害薬の作用を,プラセボと比較したランダム化二重盲検試験である。その結果,SGLT2阻害薬は上記イベントリスクを26%,有意に低下させることが明らかになった。本試験の特徴は,SGLT2阻害薬という血糖低下薬を用いながら,55%にあたる2605例が糖尿病を合併していない点である。これら2605例が,今回の解析対象となった。

本検討における「糖尿病新規発症」の定義には,「試験通院2回連続でHbA1cが6.5%以上」だけでなく,「主治医判断による,血糖低下薬処方を伴う2型糖尿病診断」も加えられている。

その結果,追跡期間18.2カ月(中央値)における糖尿病新規発症率は,プラセボ群の5.0/100例・年に対し,SGLT2阻害薬群では3.4/100例・年となり,SGLT2阻害薬群におけるHRは0.68(95%CI:0.50-0.94)の有意低値となっていた。ただし「糖尿病新規発症」の内訳(HbA1c高値 vs. 主治医判断による血糖低下薬開始)は明らかでない。

一方,HbA1cの推移を見ると,試験開始時から両群ほぼ同等であり,試験開始後8カ月の時点でも両群間に有意差はなかった(SGLT2阻害薬群:5.7%,プラセボ群:5.8%)。そしてこの差は試験期間終了まで開いていない。さらに試験薬以外の血糖低下薬の併用率を見てみると,試験開始時から1年後にかけての増加率は,インスリンがSGLT2阻害薬群の0.7%に対しプラセボ群で2.0%増加,逆にDPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬群の増加率が1.8%とプラセボ群の1.5%よりも高い傾向を認めたものの,その他血糖低下薬併用率の増加幅は両群で同等だった。

DAPA-HF試験は,AstraZeneca社から資金提供を受け実施された。

【文献】

1) Perkovic V, et al:N Engl J Med. 2019;380(24):2295-306.

2) Rosenstock J, et al:JAMA. 2019;322(12):1155-66.

3) McMurray JJV, et al:N Engl J Med. 2019;381(21): 1995-2008.

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