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第15章 5. 性感染症と口腔粘膜症状

登録日:
2018-08-23
最終更新日:
2018-08-22
■Point

HIVに関連した口腔病変で最も多いのは急性偽膜性カンジダ症であるが,繰り返すウイルス性口内炎にも注意すべきである。

ウイルス感染では口腔粘膜にアフタ様の小さな潰瘍が多発する。主なウイルスは単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスなどである。

HIVに関連して毛状白板症,カポジ肉腫,HIV関連歯周炎などが口腔に生じる。

性感染症に関連した口腔粘膜病変としては,上記のほかに梅毒の第Ⅰ期の初期硬結,第Ⅱ期の特徴的な乳白斑,口蓋のbutterfly appearance,単純ヘルペスウイルス感染症がある。

症例 65歳,男性。主訴:口内炎が治らない

【既往歴】高血圧症,腰椎ヘルニア,胆囊摘出,虫垂炎。
【現病歴】数カ月前から口腔内の荒れ,痛みを自覚し,かかりつけの内科を受診し,ステロイド含有軟膏を処方されたが改善しないため,近くの総合病院口腔外科を受診した。ウイルス性口内炎が疑われ血液検査を施行され,単純ヘルペスウイルス抗体IgG,サイトメガロウイルス抗体IgM,IgGと判定された。同時に行われた細菌培養検査でカンジダが陽性であったことから抗真菌薬の含嗽を行い一時改善した。しかし,その後も同様の症状を繰り返すため当科に紹介受診した。
【経 過】明らかな白苔の付着はないものの,抗真菌薬の使用で一時的に自覚症状が改善したが,多発性アフタの発生を繰り返した(図1)。経過中,外陰部に潰瘍が生じたことからBehçet病を疑い内科に対診した。精査の結果,HIV感染が判明した(HIV-RNA定量7.9×104/μL,CD4陽性リンパ球数486/μL)。直ちに感染症科に対診し,治療が開始された。治療開始後は口腔粘膜に症状の再発はない。

間違えやすい似たもの画像
単純ヘルペスウイルス感染症/帯状疱疹/ヘルパンギーナ
▶‌単純ヘルペスウイルス感染症(図2):初感染では歯肉を含めて口腔粘膜の広範囲に小アフタが多発する。再活性化の場合は比較的限局した範囲に小アフタが集簇する。口唇に症状を繰り返すとこも多い。
▶帯状疱疹(図3):口腔粘膜に症状が現れるのは三叉神経の第2枝,第3枝である。神経痛様の疼痛から始まり神経支配領域に一致して小水疱が多発し,直ちに破れてアフタ状になる。
▶ヘルパンギーナ(図4):口蓋垂を中心として軟口蓋に多発性に小アフタを生じる。


■解説

HIVに関連する口腔病変は感染者の30〜80%に生じる。最も多いのが口腔カンジダ症で,臨床的には偽膜形成型である。そのほかに単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスなどが原因となるウイルス感染があり,口腔粘膜にアフタ様の小さな潰瘍が多発する。HIVに関連して毛状白板症,カポジ肉腫,HIV関連歯周炎などが口腔に生じる。

鑑別診断のポイント

毛状白板症は舌縁部に生じる特徴的な毛状の白色病変である。
カポジ肉腫は口蓋が好発部位であり,暗褐色の隆起で表面には壊死を伴うことがある。
HIV関連歯肉炎・歯周炎は免疫力の低下による顕著な歯肉炎・歯周炎で,歯肉の辺縁に沿った帯状の発赤が特徴的である。しばしば歯肉の壊死を伴い,急速に進行する。
ほかに性感染症に関連した口腔粘膜病変としては,梅毒の第Ⅰ期の初期硬結,第Ⅱ期の特徴的な乳白斑,口蓋のbutterfly appearance,単純ヘルペスウイルス感染症がある。

治療・予後

AIDSの治療方法の進歩により,AIDSで死亡する人は急速に減少している。AIDS治療の開始後は口腔粘膜症状も比較的早期に改善する。

神部芳則,山本亜紀

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