株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CASE 06:無診察処方

登録日:
2017-12-21
最終更新日:
2018-10-05

「時間がないから,診察なしでいつもの薬を出してよ!」

長年通院している患者が予約なしで突然来院。今日服用しようと思った分の薬がないので,すぐに処方してほしいと訴えてきた。

患者 俺は長年通院しているんだ。今日服用する薬を出してくれ

受付 診察しないとお出しできません

患者 どうして!慢性疾患で長いこと同じ薬を服用している。今さら診察しなくても薬さえもらえばいいんだよ!

受付 それはできません

患者 これから予定があって,診察を受けてる時間がないんだよ!

どう対応する?─良い例・悪い例

× そうですか,しかたないですね。今日だけですよ
× わかりました。でも診察代も合わせてお支払いいただきます
△ 医師と一言二言,話をしてくだされば,薬はお出しします
○ 申し訳ありませんが,当院では診察なしでお薬は出せません

ポイント

医師法第20条は無診察での処方を禁止しています。症状が悪化した場合,医療過誤の法的責任が問われかねず,医師は診察を行い,症状に合った薬を慎重に処方しなければなりません。患者にも丁寧にこのことを説明し,納得していただくしかありません。

解説

●無診察処方を禁止した医師法第20条

医師法は医師自ら診察しないで治療,処方せん,診断書等の交付をすることを禁止する規定(第20条)を設けています。

同条でいう「診察」とは,問診,聴診,触診等を指し,どの方法によるかは規定していません。要するに,現代医学において診断を下しうる程度でよいとされています。

無診察による処方の禁止規定を設けている理由は,薬は本来,異物であり,使用法を誤れば危険な状態に陥り,副作用が起こる可能性があるからです。長期間服用していくうち体質の差はあれ,副作用が出現してくることは十分ありえます。この条文は,患者の求めに応じて処方することは危険きわまりないということを戒めているのです。

患者の求めによる安易な処方によって,病状が悪化した場合,医師の過失責任や医療過誤としての法的責任が問われかねません。診察を行い,症状に合った薬を慎重に処方すべきです。

●処方は医師が注意義務等を果たした上で判断するもの

診療報酬の改定により,昔と比較して医師が必要と認めれば,相当日数分の薬を処方することが可能となりました。患者の通院する間隔が広がったことで,経済的負担および通院に伴う精神的・肉体的負担が軽減されたわけです。ただ,処方日数の縛りがなくなったといっても無制限ではなく,規定上の処方量は予見できる必要期間でなければならないとしています。

薬剤には治療目的で用いられる本来の効能に加え,人体にとっては都合の悪い副作用を生じさせるものが含まれています。

そこで,医師は,①患者の治療のため,薬剤の処方・投与にあたっては副作用を防止するために最善の注意義務を負うこと,②その注意義務は診療当時の臨床医学の実践における医学水準を基準として判断されること,③その医学水準は診療にあたった医師が研鑽義務(医薬品に関する情報収集の義務)を尽くし,転医(勧告義務)も前提とした場合に達せられるべき水準とされていること,④薬剤の使用にあたって医師は常に,副作用による事故防止のため医薬品添付文書の記載をはじめとする医薬品に関する医療上の知見に従って禁忌等を識別し,適正な用法・用量により副作用の発現に留意しながら処方すること,とされています。

法的にみると,医薬品の使用にあたっての医師の注意義務,その根拠となる予見可能性・予見義務・回避可能性・回避義務が果たされていたかどうかがポイントです。予見とは「事がまだ現れない先に,推察によってその事を知ること」(広辞苑)という意味であり,医師が処方する際に求められる注意義務とされています。したがって,患者に処方する必要期間というのは,医師としての注意義務を果たした上で患者の症状に応じて医師が判断することになります。

医療機関の対応

●患者の多くは保険診療のルールを説明すると納得する

今回のケースのように,「薬を切らしたので,薬だけ出してほしい」とか「痛み止め薬を出してほしい」等々の理由で処方のみを求めてくる場合があります。極端な例だと,一方的に電話で要求して電話を切る患者もいます。
受付担当者としては個々の患者の事情は察しても,保険診療のルールを逸脱してまで患者に便宜を図れないことから,無診察による処方ができない旨を説明しますが,ルールを知らない患者は「なぜなのか理由を示せ」などと詰め寄ってくることもあります。
患者の多くはルールを説明することで,近日中に受診し処方を受けることで了承しますが,「忙しくて受診する時間がない」とか「症状が安定しているので処方のみでいいから」などというわがままとしか思えない理由で要求してくる場合もあります。しかし,薬が体にとって異物であることに変わりはなく,あなどるわけにはいかないのです。

●長期投与の例外について十分説明する

最近は長期投与についても当然患者に知れ渡っています。しかし,すべての薬剤が該当するわけではないこと,麻薬・向精神薬や薬価基準収載1年以内の新薬は投与期間に上限が設けられていること,解熱剤や抗生物質などは患者の症状から医学的に必要な範囲で投与すべきと思われること,また薬事法等で投与期間が定められている薬剤については薬事法に則った投与期間となること,そして医薬品には副作用があり,患者の症状や疾患によって適切に服用することが望ましいこと,場合によっては一定期間ごとの診察によるチェックが必要であることなどを十分説明する必要があります。

医療機関・医師に課せられた義務を患者は知らないまま,様々なことを要求してきますが,医療機関側では患者に対し,課せられた義務の内容や違反すれば罰せられることなどを説明し,了承を得ることが肝心です。

関係法令など

・医師法第20条(無診治療等の禁止)
医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し,診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については,この限りでない。

シリアルナンバー未登録の方は
登録画面へ

このコンテンツは購入者限定コンテンツです。

Webコンテンツサービスについて

ログインした状態でないとご利用いただけません ログイン画面へ
新規会員登録・シリアル登録の手順を知りたい 登録説明画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい コンテンツ一覧へ

関連記事・論文

もっと見る

page top