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怒りをすぐに収めるための手法

登録日:
2019-02-07
最終更新日:
2019-02-06

けっこう頻繁に怒っている。ほかの医療者の皆様と違って、ぼくの職務は患者を直接相手にすることはないので、患者の言動にブチ切れる機会はない。でも、しょっちゅう怒っている。怒る相手は同じ医療者であったり病院職員であったりする。けれど、詳しいことをなかなか思い出せない。
たとえば病理医であるぼくの元に、他科のスタッフがやってきて、USBフラッシュメモリを手渡し、「お忙しいところすみません、この症例の病理写真を撮っていただけませんか?」と頭を下げる。そんな、頭なんか下げなくていいですよ、とかなんとか社交辞令を返しながら、ぼくがUSBをPCに挿していると、そいつは油断して股間をボリボリかいている。即座に覇王翔吼拳だ。コノヤロウお前たしか当直空けだよな、俺のデスクの周りに皮脂由来のマイクロミストを散布するのをただちにやめろ!
でもまあ心の中はともかく実際には何も言わない。USBを軽くウェットティッシュで拭いてから続きの作業をするだけである。今のを「怒りのエピソード」として紹介してよいかどうかすら悩ましい。ようやく思い出した事件ではあったが、すでに小ネタになってしまっている。
そういうこと、なのだろうな。
ぼくは、怒りのひとつひとつが瞬間的に終わっていくことを、なんとなくわかるようになった。年齢とともに感情の持続時間というか感情を長続きさせる体力が短くなっているのかもしれない。加えて、ちょっとしたコツというか、怒りをすぐに収めるための手法も、あるにはある。

ライター人格が「怒り」を俯瞰

怒りを覚えた瞬間に、心の中で、
「この話、ぜったいにツイッターでつぶやいてバズらせてやるぜ!」
と、敏腕のツイッター専門ライターのような人格がピョコンと顔を出す。次の刹那には、怒っていたぼくという存在はすでに一人称の自我ではなく、ライター人格がドローンに乗って空中から眺めているキャラとして俯瞰されている。股間をかいている某氏もまとめて俯瞰される。2人の関係はもはや「彼我」ではなく、等価な「登場人物たち」に変わっている。股間も俯瞰される(言いたいだけ)。もはや全てが他人事となる。あとはこの話題をどのように盛り上げて140文字に収めてツイートするか、そういう方面にメンタルをスイッチすればよい。このやり方、アンガーマネジメントの達人ならばなんと言い表すのだろう? 総論を読んでみた。「怒りを客観視する」。それそれ。たぶんぼくがやっているのはそれ。
注意点として、ライター人格がツイートするのはあくまで「脳内」で行う。実際にツイートするのはバカだ。まれに、いい年をした中年が診療時のプチイラつきを堂々とツイートしているのをみると、怒りを覚える。守秘義務とかないのか。即座に鉄山靠をぶち当てたくなる。すかさずホイッスルが鳴り響き、ライター人格がドローンに乗って上空に到達し、「くだらねぇことにイライラしてんなあ。松平健を2倍にしたらマツダマツダイライラケンケンだよね」などと茶化して脳内タイムラインにツイートして去っていく。「脳内いいね!」が4個くらいついて終わる。
近頃は脳内でツイートするのにも飽きてきたので、何か怒りのエピソードがあるとすかさず「話終わらせ担当芸人」の人格が現れて、「チャンチャン♪」という。話が続いていても「チャンチャン♪」と言われると話は終わってしまう、という人の性を利用した高度な魔法である。「一方その頃、スタジオでは…」などとつなげると、さらに効果が増す。場面が勝手に切り替わり、スタジオの有吉が興味なさそうに次のフリップをめくって話がうやむやになる。一朝一夕では身につかないだろう。修行するといい。でも飲み会で使うと怒られるぞ。チャンチャン♪

市原 真
いちはら しん:2003年北海道大卒。国立がんセンター中央病院(当時)で研修後、JA北海道厚生連札幌厚生病院病理診断科勤務。12年より同科医長。「病理医ヤンデル」としてツイッターなどSNSでも情報発信し、人気を博している。

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